124. 『境界線』はその時々の自分を写す鏡のような歌
――アルバム『Down to Earth』の5曲目は『境界線』。今もライブで歌われています。
“アルバムはメンバー全員で”ということでしたから、「1日くらい僕がスタジオに行かなくても大丈夫だろう」という気持ちがこの頃の僕には無きにしも非ずでして(苦笑)、スタジオを休んで自宅でこの曲を作り、翌日、持って行った記憶があります。ギターでコード進行をいろいろ試しているうちに、メロディと歌詞が頭からできてきたはず。気づいたら30代の自分のどっちつかずな気持ちを正直に綴った物語になっていました。電車をモチーフにした歌はこれが最初かな。昔、女友達の家からの帰りに山手線の最終電車だったことがよくあって。その風景が心の中に残っていて、自然に出てきた気がします。
――最終電車に乗り込もうとしてやめた電車の明かりを見送っている主人公の背中を思い浮かべると、なんとも言えない気持ちになります。
まるでレールに乗っているかのように時間がどんどん進んでいっちゃうことに対する悪あがきでしょうね。このまま同じような日々を繰り返していくのか、それとも他に何かを見つけるのかっていう。そういう気持ちは今の自分にもありますけどね。1番と2番の「どうなっちゃうのかなー」という気持ちを、最後に「もうちょっと頑張るか」と収めているところが、自分でもいいなと思います。40代、50代と折りに触れて歌い、還暦ライブでも寺岡呼人さんと歌いましたけど、不思議なもので歌うたびにその年代の自分を鏡のように映してくれる。普遍的な何かに触れている楽曲なのかもしれないですね。
Aメロは低めのキーで、フォークソング的な喋るような歌い方をしていますが、歌入れの時に「すごくいいね」とフセマンに言われた記憶があります。高いキーで声を張るそれまでの歌い方が、少し違うような気がし始めていた頃でした。今の自分の歌い方に近いことも、いまだにレパートリーになっている理由でしょうね。そういえば出来上がった時にフセマンと「これ、ソロでやってもいいような曲だね」、「いや、ソロはいいよ」と話したりもしました。あの時は自分がソロをやることになるなんて、考えてもいなかった。
――6曲目の『旅の途中で』は丸山さん作曲です。肩の力が抜けていくような心地よさです。
デモテープの段階ではもっとアッパーでテンポも速かったですね。すぐに「いい曲だ」と思ったんですが、歌詞がなかなか思いつかなくて。それで「もっとテンポをゆっくりにしてもらえないか」と丸山さんにお願いしました。最初は渋ってましたけど、歌詞がついたら納得してくれました。最終的なアレンジが最初の提案とは大きく離れてしまうというのは、丸山さんの曲には割とありがちなんですよ。
歌詞はデビューしてからツアーで行った国内や自分が旅行して海外で見た景色を元に書きました。旅の醍醐味というのかな。人によるんでしょうけど、僕は旅をするととってもポジティヴになれる。新しい世界を知ることが、すごくエネルギーになるんでしょうね。
今、聴いて、もうちょっと歌いこなせていたらよかったのに・・と少し反省しています。丸山さんは耳がいいし、理論もちゃんと理解した上でそれを超越した展開のメロディを作るという、ちょっと天才肌の人なんですよ。だからメロディがちょっと難しいし、毎回ハードルが高いです、歌詞を書くのも歌うのも。

(シングル「風の吹き抜ける場所へ」のMVの沖縄ロケでの一枚。)
インタビュー : 木村由理江

