84.当時の混乱した私生活が反映された作品も

――アルバム『FLYING KIDS』4曲目は『Wish…Merry X’mas』。FLYING KIDS初のクリスマスソングです。

「クリスマスソングを作ってみたら?」という提案が、プロデューサーの中村哲さんからあったのかもしれない。「それには加藤くんのこの曲がピッタリじゃないか」という話になったんじゃなかったかな。確かにいい曲ですけど、当時の僕は私生活がかなり混乱していたこともあり、どこかで「ちょっと保守的なんじゃないか」と感じていました。歌詞も混乱の中で生まれていますから、実はいろんな想いが反映されています。

――よりによってクリスマスに別れるなんて・・とも思いますが、どこか温かさがあって、それが切なさをより掻き立てるようです。

 その辺の微妙なところはよく描けている気がします。「ここが潮時なのかも」というポイントって、男女間にはあると思うんですよ。片方が勝手にそう思ってるだけかもしれないけれど、その勝手な想いこそが真実というか。要するに、全部を否定した最後にはしたくない、出会えたこと、一緒に過ごした時間を大切にしていきたいという想いですね。

 サウンドのモチーフはメンバーも好きだったアトランティック・スターの『Always』(1987年)かな。僕の声もよく出ているし、しっかり歌えてますよね。ファルセットをこんなに使ったのは、この曲が初めて。ファルセットに挑戦するよう勧めてくれたのは中村さんで、歌い手としてすごく成長させてもらいました。初期の頃のような歌い方を続けていたらいずれ声が出なくなるかもしれないと思って『レモネード』の頃からヴォイストレーニングに通い始めていたので、その成果も出ている気がします。

今、久しぶりに当時の自分の歌声に触れて「こんなに正直に歌っていたんだ」と驚きました。「恥ずかしいけれどやっぱりこれくらい正直に歌わないとダメだな」とも思いましたね。

――5曲目の『ノンストップで行くぜ』は、中村さんたちと離れたあとにメンバーだけで作った2曲のうちの1曲。作曲のクレジットはFLYING KIDSです。

 誰かが作ってきたモチーフを元に、リハスタでセッションしながら作って行ったはずです。サウンドのルーツになっているのはハウス。FLYING KIDSが初期の頃から、たとえば『ちゅるちゅるベイビー』や『我思うゆえに我あり』で何度もモチーフにしてきたシック(Chic)がハウスをやり始めたので、ちょっとびっくりしつつも「だったらオレたちもやっていいだろう」と。それで飯野さんのセンスが光るロマンチックなピアノ演奏から四つ打ちのイントロに入るという展開にしました。

僕は当時白いオープンカーを乗り回していまして、結構無茶なことも平気でしていたんですよ(苦笑)。さっき話したように私生活が混乱していましたから、「もうどうなってもいいぜ!」みたいな破れかぶれな気持ちもどこかにあって。ポジティヴに聴こえると思いますけど、そういうザラついた気持ちがこの曲の最初のモチベーションになり、この曲の疾走感やエネルギーにつながっている気がします。僕は混乱の中、ただ懸命に頑張っていただけでしたけど、結果的に“車”というモチーフを使って、それまでになかった新しい世界を生み出せたということですね。この曲ができた時はみんなの反応もよかったし、『大きくなったら』とこの曲ができたことで、スピードスターレーベルのスタッフもさらに「FLYING KIDSいいじゃん!」と盛り上がってくれたと思います。

( アルバム「GOSPEL HOUR」のポスター。)


インタビュー : 木村由理江