85. 渦中にいる自分と俯瞰する自分
――アルバム『FLYING KIDS』の6曲目は『せめて一度だけ』です。
「FLYING KIDSのルーツであるファンク色の濃い作品も必要だね」と、加藤くんが作ってきた曲をベースにプロデューサーの中村哲さんチームがアレンジを膨らませてくれたはずです。僕は完成に向かう音源に合わせて歌詞を書いていました。一言で言っちゃうとこれは“童貞の歌”、“男子高校生の妄想の物語”ですね(苦笑)。雰囲気は出ているけど、真ん中の想いがちょっと薄い気がする。もっとやりようがあったんじゃないかな(反省)。
――〔君のおめかしの お手伝いをさせてよ〕という歌詞はもう、ギリギリですね。
(苦笑)。これもプリンスの影響というか、変態的な要素を入れるというある種の“遊び”ですね。曲の後半でラップ的なことに挑戦したのは大きかったです。その後のFLYING KIDSにいろんな形で繋がっています。この曲はほぼ打ち込みだったはずで、ライブでほとんど演奏していない気がする。
――続く7曲目は『お楽しみはこれからだ!』です。
飯野さんの曲を仕上げていく時に中村さんが「(アメリカのファンクバンド)ウォー(War)の代表曲の『Low Rider』(1975年)みたいな曲になったらいいよね」と。それでちょっとアフリカンな雰囲気のあるファンクチューンを目指しました。タイトルは、僕が当時飯野さんから借りて読んでいた和田誠さんの『お楽しみはこれからだ』からいただいています。そういえばあの本、まだ返してないな(ぶつぶつ)。〔ギアをトップにチェンジして息巻いてる〕というのは、まさに当時の気分ですね。表面的には暑苦しく思える内容ですけど、実は調子に乗ろうとしている自分自身を「なんか盛り上がってるなー、オレ」と醒めた目で見て書いています。そういう意味ではこの歌詞、案外正直なんですよ。この曲の存在をちょっと忘れてましたけど、その正直さ加減がおもしろいですね。
――〔お楽しみはこれからだ!〕という一節には、移籍を機に心機一転したFLYING KIDSの意気込みが現れているのかなと思ってました。
無意識レベルですけど「これから頑張っていくぞ」という想いみたいなものは、非常にモチーフになってると思います。
――歌い方がちょっと粘っこいですね。フェロモンを撒き散らそうとしていませんか(笑)。
(笑)。このアルバムを作る時に意識していたのは“よりポップなFLYING KIDS”でしたけど、同時に“FLYING KIDSのルーツであるファンクをもう一度取り戻そう”とも思っていました。より高いレベルでポップスとファンクを融合させることを目指していたいというか。ファンクは肉体的な音楽で性的なものがつきものですから官能度を上げていきたかったし、歌い方でも“FLYING KIDSは肉体的なバンドなんだ”ということを表現しようとしていたのだと思います。

( 1991年頃、FM 富士でレギュラー番組「HAMAZAKI HOUR」の収録の様子。場所は代々木のSTUDIO ViViD)
インタビュー : 木村由理江