83.「どうした? 浜崎」と思っていたメンバーもいたかもしれない
――アルバム『FLYING KIDS』3曲目はハードロック調の『男VS女』です。
丸山さんの曲のリフを元にアレンジを進めたら、それまでのFLYING KIDSにはなかった、歪んだギターがぴったりのサウンドになったんですよ。これがFLYING KIDS のハードロック路線の先駆けとなって、『セクシーフレンド・シックスティナイン』(『Communication』収録)につながっていくわけです。(ハードロックは)僕の得意なタッチでしたから、ギターの音の“歪み”にはかなり注文をつけました。僕がギターの音にこだわっていくきっかけになった曲でもありますね。
歌詞のテーマは“性と社会の関わり”です。エイズが社会問題化し始めた頃で、本来“性”は人類を存続させていくためのものなのに、その機能に相反する病気が登場したことに僕らはどう向き合って生きていくのか、と。そういえば新型コロナウイルス感染症の登場にも、通じるところがありましたね。
――〔オレのマシンガンは相変わらず手に負えないけど〕という歌詞、かなり振り切っていませんか。
(笑)。『あれの歌』(『続いてゆくのかな』収録)とか『恵深き緑と水と君と』(『ゴスペルアワー』収録)とかセックスをテーマにした曲はそれ以前にもありましたけど、このアルバムは“理屈を超えた快楽をクリエイトする”ことも意識していましたから、より官能度を上げたいと考えてもいたのだと思います。プリンスが挑んでいた“ぎりぎりの性の表現”みたいなものに自分でもチャレンジしたかったのだと思います。その意気込みが成功したのか空回りだったのかは、よくわかりませんけど。
――ヴォーカリストとしても攻めてますよね。
僕は当時、「セクシーだ」と言われたりしていましたから(照苦笑)、自分をセックスシンボル的なキャラクターに設定することでFLYING KIDSのエンターテインメントをみんなにより楽しんでもらえたらいいと思っていたのも確かなはずです。「どうした? 浜崎」と思っていたメンバーもいたでしょうけど。
――4曲目の『王子様のように』で雰囲気はガラリと変わります。
90年代に登場したインコグニートやザ・ブランニュー・ヘヴィーズといったイギリス経由のソウルミュージックを、FLYING KIDSでもやろうとした気がします。自分でも何がきっかけで作ったのか憶えてないサビのメロディを手がかりに、中村哲さんたちがトラックを作り、そこに僕がメロディをはめ込んでいったはず。中村さんの家で作った記憶があるし、もしかしたら僕と中村さんの二人だけでほとんど仕上げたのかもしれない。やりたいことはたくさんあったのに、アイディアを詰め込みすぎて目指していた完成形には届かなかった。そこがちょっと残念ですね。映画『メアリーポピンズ』(1964年)の『スーパーカリフラジスティックエクスピアリドーシャス』やマザーグースの一節を引用したTOTOの『Georgy Porgy』(1978年)のように、呪文みたいなものを組み込んで“王子様がお姫様を救い出す”的な世界を現代に置き換えようとしたんですけど、まとめ方が無理矢理でした。頑張って毎日仕事をしているOL さんたちを、音楽で少しでも元気づけられたらいいと思っていたんですけどね。
――浜崎さんは“王子様”を演じてもいるわけですか。
そういう気持ちはあったのかもしれないですけど、中途半端に真面目になってしまって、それをギャグにもシャレにもできなかったのが敗因かな。チャレンジをしてはいるけど、FLYING KIDSっぽい曲ではないことも反省点のひとつです。
( 当時乗っていた車。白のマツダ・ユーノス・ロードスター。写真はファンの人がどこかの会場で撮影したもの。)
インタビュー : 木村由理江