46.宣伝スタッフのシビアな言葉に内心焦る

――3枚目のシングル『心は言葉につつまれて』のカップリング『ナカヨシノイミ』は、あどけなささえ感じさせるタイトルとはかけ離れたパンチのある曲です。

 ポップさのかけらもない“どファンク”ですね(笑)。この曲ではファンクによくある、メジャーとマイナーのコードの隙間をうまくすり抜けながら両方を行ったり来たりするような構造にチャレンジしています。例えばラップっぽく歌っている〔ナカヨシノイミ教えてください〕はあえてメジャーに寄せて、また次の展開でマイナーに行ってみるとか。似たようなことは『ちゅるちゅるベイビー』でもしていましたけどね。

 “ナカヨシノイミ”というフレーズは、この曲以前から僕の中にあったものです。誰かと暮らしていくことへの喜びと不安が素直に歌われている気がするし、そこに“人の生き死に”もちょっと絡んでいる。重いテーマをディープな曲にのせるという作業を、僕らは無邪気にやっていたわけですけど、それを許容してくれる環境が、初期のFLYING KIDSにはあったんですね。

メロディと呼べるものは一部だけなので、僕自身はこの曲をちゃんとした“歌”として成立させることにすごくこだわったし、何度もチャレンジしました。だから完成した時の達成感は大きかったですね。メンバーもそれぞれにチャレンジをしていたから、仕上がりは気に入ってたんじゃないかな。ただスタッフサイドの評判はそれほどでもなく、アルバム収録は見送られ・・。

この曲を聴くと飯野さんの存在を感じますね。独特なファンクのセンスを持つ飯野さんがいたからできた曲と言っていいかもしれない。

――3枚目のシングルから約3週間後の1990年12月16日、2枚目のアルバム『新しき魂の光と道』が発売されます。初代“グランドイカ天キング”からデビューまでは1年と長かったのに、デビュー後は8ヶ月で2枚のアルバムと3枚のシングルと速いペースでした。

 僕らはスタッフに伝えられたスケジュールに合わせて楽曲を作ってレコーディングをしていただけ。ただ、売り上げが好調だった1枚目のアルバム同様、2枚目もやりたい放題に音源を仕上げた頃、レコード会社の宣伝スタッフに「FLYING KIDSのブームはもうすぐ終わる。状況は厳しくなるから、アルバムのキャッチフレーズになるような言葉をみんなで考えてほしい」と言われまして(苦笑)。「もう終わり? 早いなー」と内心焦りました。「売れたー、よかったー、イエイ!」という時期はほんの一瞬でしたね。とにかくミーティングしなきゃ、とスタッフが用意してくれた都ホテルの会議室にみんなで集まったんです。

――事務所やレコード会社の会議室ではなくてホテルの会議室だったところに、バブルの匂いがありますね(笑)。

 確かに。都ホテルに入ったのはこの時が初めてでしたけど、落ち着いた雰囲気がすごくよくて「なんか大人だねー」ってみんなで盛り上がった記憶があります。

 その都ホテルの会議室で、みんなで無理矢理捻り出したアルバムのコンセプトが“バカおしゃれ”でした。僕らが影響を受けたジョージ・クリントンをはじめとするPファンクの人たちの奇抜でド派手なファッションや文化をFLYING KIDS的に日本流に解釈したら“バカおしゃれ”だろう、と(苦笑)。そのコンセプトでアルバムのアートワークも宣伝も進んでいくことになるんです。

( 2ndアルバム「新しき魂の光と道」に付いていた馬鹿お洒落ステッカー。)


インタビュー : 木村由理江