39.クールなサウンドに“激情”たっぷりの歌詞『ちゅるちゅるベイビー』
――アルバム4曲目の『ちゅるちゅるベイビー』は、音源化されている最も古い曲です。
サウンドはほぼフュージョンですけど、そこに飯野さんや丸山さんや加藤のハイセンスなコードワークが散りばめられていてすごくクールでかっちょいいんですよ。その上に〔ちゅるちゅるベイビー〕、〔君と一緒に死ねたらいいのに〕という“激情”たっぷりの歌詞を投入した。それがFLYING KIDだったと思うし、それまでの日本の音楽シーンになかったアイディアだったと思います。ただ、今説明したようなことを当時の僕がどこまで意識し、狙っていたかはちょっと思い出せない。常に新しいものを作ろうとは考えていたのは確かですけどね。“理知的なサウンドに野生な感じを放り込みたい”という衝動のようなものに突き動かされていたのかもしれない。それをみんなもおもしろがって、直感的に「100%完成形じゃないけど、これでいいかも」と思ったんでしょうね。
――浜崎さんの歌も独特です。歌詞を放り投げるような、言葉を崩して響きを楽しんでいるような。この歌い方でないと曲として成立しない、ということだったんでしょうか。
言葉を放り投げているというかシャウトしてる感じですよね。今はあまりこういうことはできなくなっちゃいましたけど、当時はこれしかできなかったんですよ。常に感情を昂らせて、入り込んで歌ってました。そういう僕のヴォーカルスタイルと想いみたいなものが真面目なメンバーのマニアックなサウンドと合わさることで、奇跡的におもしろいものができた、ということなんでしょうね。今、この曲を歌ったらもっとメロディがはっきりしたかっちょいい仕上がりになるのかもしれないけれど、本質的なかっこよさは出ないかもしれないですね。
――5曲目は2曲をつないで1曲にした『ぼくはぼくを信じて~満ち足りた男』です。
どちらも似たようなテーマですよね。〔ぼくはぼくを信じて〕とか〔ぼくは満ち足りた男〕と歌ってるけど、全然自分を信じてないし、全然満ち足りてもいない。“どうした俺?”と思うけど、それは自信のなさというか“おそれ(恐れ、畏れ、怖れ)”でしょうね。“初代グランドイカ天キング”になってイケイケだったようで、むしろビビっていたんだと思う。
『ぼくはぼくを信じて』のサウンドのモチーフになっているのは、当時よく聴いていたプリンスの海賊版の中の『We Can Funk』ですね。マイナーっぽいのにファンクしていて、すごく好きな曲でした。80年代のプリンスのファンクサウンドを意識しながらビクタースタジオでメンバーとセッションしていたら、その時の自分の感情が溢れてきて、いきなり〔ぼくはぼくを信じて〕と歌い出したんだと思います。ファンクなサウンドに対して“情緒”とか“湿りけ”のようなものが合わさることで歌になっていくんだという直感が当時の僕の中にあって、日常にある自分の気持ちの中のネガティヴなものをうまく組み合わせていこうとしたんだと思います。ファンクミュージックは黒人たちの社会に対するメッセージもテーマになっていたわけで、それを当時の日本の社会の中で置き換えるとしたら、社会的な差別という大きなものではないけれども、個人的な閉塞感とか個人が抱えている“闇”みたいなものであり、そういうメッセージが日本のファンクになるのではないかと考えていたんでしょうね。今、冷静に分析すれば、ですけど。
2021年(10月30日)、FLYING KIDSのビルボードライブ東京のライブで久しぶりにやりましたけど、“自分の奥底に封じ込めていた想い”みたいなものが解放される感じがあって、すごいなーと思いました。
(1990年頃雑誌に掲載された写真。なぜか花輪を首にぶら下げてました。)
インタビュー : 木村由理江