35.『幸せであるように』の歌詞にはマービン・ゲイと手塚治虫の影響

――すぐに浮んだという〔幸せであるように心で祈ってる〕というサビは、当時浜崎さんが大事にしていた歌詞ノートにすでに書いてあった言葉なんですか。

 書いてありました。歌詞はマービン・ゲイの『ワッツ・ゴーイング・オン』の影響が大きいですね。初めてカバーした時に改めて歌詞を確認し、ベトナム戦争だとか貧困だとか当時のアメリカの状況を憂えている歌だと知って、一層好きになったんですよ。ジョン・レノンの『イマジン』にも通じますよね。メロディアスなバラードを作る時には社会的なメッセージを込めたいという想いを、この曲で形にできたと思う。ずっと好きだった手塚治虫作品の影響もあるでしょうね。手塚作品で最初に感銘を受けた『ジャングル大帝』の、主人公のレオが自分の命を代償に誰かを救うシーンや『火の鳥』で描かれる“命”というものに対する問いかけに、僕はすごく興味があったんですよ。エンタメでもあり哲学的でもある作品をいつか自分も作ってみたいという想いが、最初に開花した曲でもあると思います。

――なるほど。

サビのフレーズもちょっと微妙なんですよね。たまに「〔幸せであるように〕のあとに続くのが単に「祈ってる」ではなく〔心で祈ってる〕なところが非常に奥ゆかしいですね」と言われますけど、祈ってる側と祈られている側の距離感が近くないのがよかったと、自分では思っていますね。

 歌詞はほぼサウンドハウスのライブ音源から起こしたままです。レコーディングの時にディレクターに指摘されて気がついたんですが、内容は1番も2番も3番もほとんど一緒なんですよ。普通ならそこで修正しようと思うのかもしれないけど、僕は全然気にならなかった。あそこで何かを変えていたら、おかしなストーリーができちゃって失敗してたんじゃないかな。気にしなかったことが、すごいなと思います(笑)。

――直感は最強ですね。

 大サビのコード進行もめちゃくちゃ複雑なんですよ。作った加藤も「あの時、なぜあれが出てきたのかわからない」って。本当に直感的に、でもすごく高度で複雑なメロディラインをよく思いついたな、と感心します。後半のギターソロをジャズ的な、オクターブ奏法っていうウェス・モンゴメリがやっていた奏法で丸山さんが締めていったのも独特だったと思う。「イカ天」のプロデューサーがよく「なんでここで急にジャズみたいになるんだよ」と文句を言ってましたけど、俺たちはそこがすごく気に入ってたんですよね。

――これは絶対にいい曲だよと確信させるあのイントロは誰が?

 飯野さんでしょうね。本当にキャッチーだしよくできてますよね。FLYING KIDSでやる時は、あのイントロがちゃんと再現されないとしっくりこない。SWING-Oくんがメンバーに加わったばかりの頃は、何度もやり直してもらった記憶があります。“自分の持ち味がまったく活かせない”という割り切れなさを、SWING-Oくんは抱えてるかもしれないですね。


(写真は父の子供の頃。一番手前が父・守利。その後が私にとっての曽祖父と曽祖母の濵崎儀一郎とフク。最後列が祖母の静江。昭和15年頃。祖父の真太郎は軍隊に召集されて不在。)


インタビュー : 木村由理江