106. “ポップ”と“バカおしゃれ”の狭間で

――アルバム『HOME TOWN』7曲目の『森の中へ』を聴いていると、木漏れ日が舞う森の中を彷徨っているような感覚になります。

 ちょっとビートルズ的ですよね。『The BEATLES』に収録された『Dear Prudence』が好きでしたから、その影響を受けている気がします。FLYING KIDSの持ち味である“ブラックミュージック魂”がないのは問題ですが、メンバーが見事に世界観を作ってくれていて、これはこれでよかったなと今、思います。アルバムの最後に辿り着くための一つの橋渡しとしての役目をこの曲は十分果たしてくれているし、構造的にも演出的にもよかったですね。

――ベースや最後のコーラスも印象的でした。

 僕もびっくりしましたけど、伏島さんはこういう情緒的なベースプレイがすごく得意なんですよ。中でもフレットレスベースが上手でして。そういう意味では伏島さんの持つポテンシャルが、思いがけず発揮できた曲と言えるかもしれないですね。『GOSPEL HOUR』で磨いたコーラスも活きてますね。この頃はまだ全員がコーラスをやっていました。

 この曲の“恋人を探しにいく”というコンセプトが『ディスカバリー』へとつながっているんだな、とも今、聴きながら思いましたね。シチュエーションは違いますけど、恋人に会いにいくという最初の歌です。

――アルバムを締めくくるのは『やりたい事をやりたい』です。

この曲が出来上がるまでに紆余曲折がありましたねー。当時かなり斬新な音作りをしていたじゃがたらのOtoさんにアレンジお願いしたんですけど、いろんなことがうまく噛み合わず・・。実際の曲のイメージと「こんな感じを目指したい」と僕らが伝えたサウンドに大きなズレがあったことが原因だったと、あとから気づきました。本当にOtoさんには申し訳なかったと思っています。一旦、完成させていただいたもののやっぱりバンドのメンバーだけで作ろうということになるんですが、シタール奏者に来てもらったのにしっくりこなくてボツにしたり、途中でエンジニアが離脱したり・・。最終的にトランペットとサキソフォンとパーカッションを入れてまとめたわけですが、お金と時間と労力が3曲分くらいかかってしまいました(苦笑)。

――“やりたい事をやりたい”というのは当時の浜崎さんの心の叫びだったのでしょうか。

作っている時は無意識でしたけど、“ポップなFLYING KIDS”と“バカおしゃれを掲げていたファンキーなFLYING KIDS”の狭間でもがき、破裂した気持ちのようなものが、この楽曲に表れていると思います。やりたいことをやっていたはずなんですけど、ジレンマみたいなものも感じてたんでしょうね。捻りも何もなしに思ったことを歌にせざるを得ないくらい、時間的な余裕がなかったのかもしれない。思っていたことがそのまま歌になってるような曲は他にもありますが、みんなの前ではいかにも“創作してきました”みたいな体でカッコつけてはいても、実際は思いつきの連続だったりすることもあったということですね(苦笑)。

(当時のレコーディング風景)


インタビュー : 木村由理江