93. ツアータイトル“Break Trough”が上げたみんなのテンション
――『風の吹き抜ける場所へ』のカップリングは『大人』。『大きくなったら』のあとを受けて、この曲が明治乳業の「ニューステップ」のCMで流れました。
『大きくなったら』を作る時のバンド内コンペに加藤くんが出した曲がベースになっているはず。〔大人になって 考える〕のところの加藤くんのメロディが気に入っていたので、タイアップが延長になると聞いて「じゃああの曲で作ろう」と。同じCMのシリーズでしたから、テーマも『大きくなったら』と似たものになりましたね。
――シングル『風の吹き抜ける場所へ』リリースから約1週間後の6月30日から全23本の“Break Trough”TOURが始まっています
タイトルを決めたのは香港のホテルでしたね。『恋の瞬間』のMVのロケで行ったNYでは「いろいろ勉強してくるように」と言われてブロードウエイで公演をいくつか観たりしましたけど、もっと僕にいろんな経験をさせてジャンプアップさせたいという意図もあったんでしょう、事務所の社長が何度か僕を海外に誘ってくれていたんですよ。香港の前はバリ島で、夏の気分を思いっきり味わいながら『風の吹き抜ける場所へ』のミックスの最終確認もしたし。旅に出ることで自分自身や作品を客観的に捉えられるようにもなって、自分の中のスケール感やイメージもどんどん広がっていく時期でした。
――中国返還が1997年7月1日ですから、まだイギリス領だった香港ですね。
そうです。ホテルに「次のツアータイトルは“Break Trough”でどうですか」というFAXが、ディレクターの安藤さんから送られてきたんです。“ブレイクするんだよ、FLYING KIDSは”ということですね。それで、「よし、それで行こう」と。みんなも「頑張るぞー」と気合を入れて臨んだツアーでした。移動は前回のツアー同様、1台の車にみんなで乗って交代で運転しながら。僕はこの時もキャンペーンで先に現地入りすることが多くて、一緒に車で移動したのは北海道くらい。曲もヒットして、お客さんも戻ってきてくれて、各地盛り上がったはずです。
――ツアー最終日は9月2日。11月7日には浜崎さん出演のドラマ『僕が彼女に、借金をした理由。』の劇中歌である『君に告げよう』がリリースされます。バラードがシングルになるのはFLYING KIDS初でした。
ドラマのプロデューサーに「バラードっぽいのがいい」と言われて、「パンクミュージシャンの役なのにバラードなのか」とちらっと思った記憶があります。あとファンクから離れてきちゃったな、今までとちょっと違ってきちゃったなという想いもありました。でも僕が出るドラマの劇中歌で、バンドメンバー役でフセマンと加藤くんも出ていて、「ブレイクするぞー」という掛け声もかかってましたから、そこは割り切ってました。楽曲を作る時には、直球を投げること、ピュアな世界観を追求することを意識していた気がします。捻りを入れる余裕もなかったのかな。〔青春のポプラ並木〕なんて、相当ベタですよね。マニアックな目線でFLYING KIDSをいいと言っていた人たちは「あれ?」と思ったかもしれない。でもこの曲で聴いてくれる人たちの幅が広がったのも確かで、ファンクとかマニアックな音楽とは縁のなさそうな若い人たちがライヴ会場に一気に増えた。今でも「私の青春の象徴みたいな曲でした」とよく言われます。
――ちなみにカップリングは『お楽しみはこれからだ!』のライヴバージョンでした。

(当時のFLYING KIDSのメンバー、高野寛さん、ディレクターの安藤広一さん、そしてマネージャーの大場さん、黒崎さん。)
インタビュー : 木村由理江