69.『GOSPEL HOUR』はFLYING KIDS作品の中でもとくに好きな1枚
――『GOSPEL HOUR』の最後を飾るのは『恋人だけじゃ愛が足りない』。物議を醸しそうなタイトルです。
当時も「友情だけじゃ愛が足りないわ!」って怒られたことがありました(苦笑)。
“友情”をテーマにしたのはディレクターの田村さんの提案です。野島伸司さん脚本の青春群像ドラマ『愛という名のもとに』が話題になっていた頃でしたね。僕もいろんな新しい友だちができて、みんなと朝まで飲んだり、酔っ払って街を歩いたりするような生活が始まっていたので、その楽しさを歌にしました。歌詞の中の〔同じ人を好きになる〕みたいなことも、当時の仲間内ではあったことです。
加藤の曲ですが、作曲能力の高さとメロディセンスのよさが光ってますね。とくに大サビのメロディ。彼の好きな山下達郎さんの影響も大きいんでしょうけど、ある種の凄みすら感じます。キーが高すぎて僕がちゃんと表現できてない気もしますが(苦笑)。初期の頃は加藤が持っている作曲センスがすごく鍵になってましたね。
録音したのは武蔵野セントポーリア教会。ゴスペルがテーマのアルバムだから、教会で1曲録ろうということでした。
――“歌う”がテーマの『GOSPEL HOUR』は充実したコーラスワークに驚かされますが、“野生の叫び”のようだった浜崎さんの歌が、再現可能な歌になりつつあるのも印象的です。
再現可能な歌にしていこうとしていたんでしょうね。前作『青春は欲望のカタマリだ!』から始まっていたFLYING KIDSと僕自身の改造が進んでいたんだと思います。“次のステップへ進むための動き”をアグレッシヴに押し進めたくて僕らはジリジリしてたんですよ。そういえば田村さんが僕らに「“歌う”、“踊る”、“聴かせる”をテーマにアルバムを作ることでひとつの答えに辿り着くという流れはどうだろう」と言ってくれたことを今、思い出しました。三部作で答えは出ませんでしたけど、『FLYING KIDS』や『Communication』というアルバムで、その答えに辿り着いた気はします。
――『GOSPEL HOUR』の仕上がりをどのように受け止めていたか、また久々に聴いた印象を教えてください。
このアルバムは新機軸でしたね。FLYING KIDSのルーツミュージックである“ファンク”の匂いはありつつ、ポップな方向へと世界を広げ始めている。それは僕らの発明でもあったと思うし、それを新たな軸としてFLYING KIDSが収まるべき場所を模索していく最初のステップとなった作品だったと思います。それから・・。“永遠の青春”みたいなものが作為なく、メンバーみんなの努力によって表現されているのを改めて感じました。メンバーが作った曲はどれもよかったし、コーラスも本当に頑張った。「FLYING KIDSでとくに好きなアルバムは?」と訊かれたら迷わず「『GOSPEL HOUR』です」と今でも答えたいくらい好きなアルバムです。でも売れなかったんですよねー。メンバーがあんなに純粋に力を合わせて作った、こんなに自分が好きなアルバムが全然評価されないということに本当に失望したし、かなり落ち込んだ記憶があります。その時にはすでに2作目の『DANCE NUMBER ONE』の制作が始まっていて、「もっとみんなに喜んでもらえるもの、売れるものを作らなきゃ」という気持ちに、僕はなっていったんですよね。
(アルバム・GOSPEL HOURの時のソロ写真。カメラマンは小木曽威夫さん。)
インタビュー : 木村由理江