68.どこまで自分の殻を破れるか、その限界を知りたい

――『GOSPEL HOUR』の4曲目は『恵み深き緑と水と君と』。歌声が独特です。

 加藤の曲がエルビス・プレスリーっぽかったし、エルビスのルーツもゴスペルなので、ふざけてエルビスを真似て歌っていたのをそのまま出しちゃったんですね。普通に歌ったのも録ったんでしょうけど、なんとなくみんな「こっちにしようか」って。

 歌詞にはレイモンド・カーヴァーの短編小説のようなロードムービー的な要素もちょっと入っている気もするけど、僕がこの歌詞でトライしたのは、自然とテクノロジーという調和し得ないものを同時に表現することでしたね。たとえばスポーツカーに乗って自然の中を疾走している時に感じている“スピードと癒し”のような、クールなテクノロジーの中で感じる肉体のリアルだったりテクノロジーの中で自然が持つ意味だったり・・。でもそういうのをすべてすっ飛ばして一番かっこいいのは〔だれが優しさを教えてくれるのだろう〕という歌詞ですね。

――なかなか表に出しにくい言葉ですよね。生々しくて、何だかはらはらします。

 ある種、メンタルな意味での露出狂なんですよ(苦笑)。自分の最も内奥にあるものを思い切って見せて、みんなに何かを感じてもらいたいという想いなんでしょうね。

――どこまで見せられるかで、自分自身の何かを確認してたりもするんですか。

 まあ“破れ”ですよね。どこまで自分の殻を破れるかその限界を知りたい、みたいな。カッコつけないカッコよさというか。それは今も変わらず持っている感覚ですし、カーリングシトーンズにも通じるところですね。

――そして5曲目は『Brothers&Sisters』。

冒頭のコード進行はジャズの有名なスタンダードと同じものですね。大学の時から温めていたそのコード進行が、部屋にこもって曲作りをしてたら突然浮かび上がってきたんです。タイトルがつかなくて悩んでいたら、ディレクターの田村さんが「“Brothers&Sisters”はどうですか?」って。それをいただきました。

――歌詞の世界観はどこから?

 う~ん。就職して社会に出たら“大人”ということになんでしょうけど、20代ってまだまだ将来は未知数じゃないですか。仕事も恋人との関係も先が読めない。当時の僕の音楽活動も同じで、1枚目のアルバム『続いてゆくのかな』のタイトルの如く、無意識の不安感がすごくあったんだと思います。それを解消するためにも絶対的に信じられるものをこの手に握りしめたい、という想いですね。友だちと街に繰り出したりして人生を謳歌していた一方で、どこかで怯えてもいた。あの頃の感覚が、この歌を聴くと蘇る気がします。

――さっき曲を聴きながら「ここまで低い音程で歌うのは何か理由があったのかな」と呟いていましたが・・。

そういうふうになっちゃった、ということなんでしょうね。音域が一番広い曲なんですが、狭めることもできたのにそうしなかったのは、自分の音域をフルに使った表現にトライしたかったんだろう、と思います。ただそれがネックでライブではなかなかお披露目できないという・・。「好き」と言ってくれる人がたくさんいたんですけどね(苦笑)。

 声がよく出ていて、自分でもびっくりでした。パーカッションはASA- CHANGですね。

(アルバム・GOSPEL HOURの時の集合写真。カメラマンは小木曽威夫さん。)


インタビュー : 木村由理江