59.“曲を生む”から“曲を書く”へ
――アルバム『青春は欲望のカタマリだ!』の冒頭を飾る『欲望のカタマリ』は中園さんの曲です。
中園さんが鼻歌みたいな感じで持ってきたメロディをもとに、セッションしながら仕上げたんじゃなかったかな。オープニングのバイクの排気音は、当時フセマンが乗ってたハーレーダビッドソンの音。ビクタースタジオの駐車場で録音しました。美空ひばり/ジャッキー吉川とブルー・コメッツの『真赤な太陽』(1967年)みたいなものもどこかで歌詞のモチーフになっていたりします。ファンク色はちょっと薄いですね。
――テーマを与えられて楽曲を作る作業はどうでしたか。
それまでやったことがなかったわけですから、若干の違和感はあったと思います。でもリリースのスケジュールは決まっていて、それに合わせて周りはみんな動いてましたから、とにかくやるしかなかったんです。“曲を生む”から“曲を書く”という感じに、ここからどんどんなっていきましたね。
――『欲望のカタマリ』に続くアルバムの2曲目は『朝日を背に受けて』です。
『歌の思い出』と同じくらい人気の高い曲です。少しニューソウルっぽいのかな。疾走感も、いいですよね。
フセマンが作ってきた曲をもとにセッションしながら仕上げ、その過程で瞬発的に思い浮かんだ言葉を歌詞にしているので、内容は自分でもよくわからないです。「そういう気持ちだった」としか言いようがない。「イカ天」出身であることへの逆風とかヒット曲を作らなきゃいけないというプレッシャーとか、困難が次から次へと出てきてましたから、“向かうところ敵なしの人になりたい”という切実な想いだったんでしょう(苦笑)。小林正弘さんのブラスアレンジもすごくいいですね。イントロのホーンは、朝日が地平線から顔を出す瞬間を見事に表現している。そういう“夜明けの美しさ”みたいなことも、歌いたかったのかもしれないです。
――〔大人になるのはいいけれど 複雑でくじけそうになる〕とか〔君一人だけでいいんだ ぼくを認めてもらいたいな〕とか〔生まれてきたのはいいけれど つらい事はなぜ起きるの〕というフレーズが切実です。
当時はまだネット社会じゃなかったから今に較べたらはるかに平和でしたけど、それでも一方ではチヤホヤされ、もう一方ではあれこれ言われることに疑心暗鬼になったりストレスを感じたりし始めていたんだと思います。音楽誌のレコード評でも褒められたり貶されたり。当時の音楽誌はまだフラットな立ち位置だったから、(CDの)広告を出しているいないに関わらずシビアだった。健全だったとも言えるんですけどね。
2022年、北海道の弾き語りツアーで久々にこの曲を歌った時には燃えましたねー。ちょっとしたサービスのつもりで選曲したんですけど、歌い出したら興奮してきちゃって、気がついたら叫び散らかしていた(苦笑)。あれには自分でもびっくりしました。普段はこんなに冷静で穏やかな人間でいるのに、昔の曲を歌うことで眠っていた何かが叩き起こされたんですね。もちろんその時、その場所ならではのお客さんとの関係性もあるんですけど、自分でコントロールしてない部分を見せることが、今の自分の表現のひとつになっていることがおもしろいし不思議だなと思います。FLYING KIDSのステージでもたまにこの曲をやりますけど、やっぱり蘇ってくる何かがありますね。
(父が映画「エレキの若大将」のロケ地で、加山雄三さん、星由里子さんと撮ってもらった写真。右が35歳の父)
(2008年に4加山雄三さんのライブに行った時の写真。43歳。)
インタビュー : 木村由理江