60.当時の状況や思いがそのまま投影されている『明日への力』
ーーアルバム『青春は欲望のカタマリだ!』の3曲目は『明日への力』です。曲調は軽やかですが言葉は静かに沈み込んでいくようなところがありますね。
この頃の僕は、肉体的に本当に疲れていたんですよ。いつもげっそりしてたし目の下のクマもすごくて、みんなに「不健康だ」と言われてました。小泉今日子さんも「ハマちゃん、もっと健康にならなきゃダメだよ」と心配してくれて、おすすめの整体に連れて行ってくれたこともありました。この曲は、小泉さんが整体に連れて行ってくれた日の午後にできたものです。ビクタースタジオの、取材でも使うこともあるピアノのある部屋で飯野さんと一緒にプリプロをしていたんですが、飯野さんがこの曲のコードを弾き始めた瞬間、メロディがスルスル出てきて、歌詞もほぼ同時に、一気に出てきた。飯野さんがすごく好きだったシカゴの『サタデー・イン・ザ・パーク』(1972年)みたいなタッチにしようと話していたのか、期せずしてそういうタッチになったのかどっちか忘れちゃいましたけど、「できたー!」と二人ですごく盛り上がったのをよく憶えています。
でもこの曲、キーが低いんですよ。今なら普通に歌えるキーですけど、当時の僕にはちょっと厳しかった。それでも自分にちょうどいいキーを探して歌おうと思わなかったのは、飯野さんのピアノの雰囲気がすごくよかったのと、やったことのない低いキーで歌うのもひとつのチャレンジだと考えたから。ただライブではバンドの大きな音に声が負けてしまって、ちゃんと表現できませんでしたけどね。
――この歌詞も浜崎さんの心の叫び、と考えていいですか。
当時の自分の状況や想いそのままです(苦笑)。とにかくずーっと疲れていたし、へたってました。言葉がシンプルで表現がストレート過ぎるのも、そのせいでしょうね。他に書きようがないか、もう一度考えようかな・・とチラッと思った気もしますけど、思いつかなかったのか「これはここまでとして、次へ行こう」と判断したのか、ほとんどいじりませんでした。自分としては物足りない部分もあったけど、今聴いたら、そのままでよかったな、と思えました。無防備なフレーズと輝いてるフレーズ、どちらもたくさんありますね。
――歌詞の中で歌われる季節感が、個人的にはとても好きです。
季節の巡りを1曲に収めた最初の曲ですね。好きなのは〔秋のコートを背中にかけてくれたのは誰だろう〕というところ。そういう優しさって、ありますよね。
(母方の祖母の若い頃の写真。大武かう。名前が気に入らず自分で幸子と名乗っていました。とても気持ちの広い、優しい方でした。)
インタビュー : 木村由理江