42.栃木の思い出がベース『きのうの世界』、物議を醸した『君が昔愛した人』

――『幸せであるように』に続く8曲目は『きのうの世界』です。

  当時ボビー・ウーマックにハマってた加藤が作ってきた曲です。それがどうして『きのうの世界』という歌詞になったのか、その過程は全然憶えてないですけど、ノスタルジーみたいなものが歌になりそうな気がして、それをテーマに作って行ったんだと思います。栃木の思い出がベースになったのは、同郷の加藤が書いてきた曲に何か呼ばれたのかもしれないですね。いまだに加藤の曲に歌詞をつけようとすると、不思議と栃木の思い出や懐かしい景色がよぎりますから。『あいのいたみ』(『みんなあれについて考えてる』収録)や『背中の彼女』(『そしてボクら、ファンキーになった』収録)とかもそうだし。

 この曲には、中学3年生の時の担任で、間違ったことをした生徒には本当に厳しく向かい合う姿で“正しさとは何か”を僕に初めて感じさせてくれただけでなく、僕がそれまで“教師”という存在全体に対して抱いていたネガティヴな感情を取り払ってくれた宗像茂先生に対するリスペクトみたいなものや、精神的に参っていた高校から浪人時代、よく一緒に音楽を聴いたりコーヒーを飲んだりおしゃべりしたりして過ごしていた仲のいい友達との濃密な時間とかが収められている気がします。その時点で僕は、加藤もいるFLYING KIDSや東京学芸大学の仲間と結成したバンドで活動していて、その頃とは違う人生を歩んでいたんですけどね。

 〔清らかな勇気がわいてくれたら〕というフレーズは、自分の中から失われていこうとしている“純粋無垢”なところを、少なくとも音楽の中では守り続けて生きて行こう、という決意みたいなものだったのかもしれない。そういう想いは、今でもあるんですよ、だいぶ汚れちまってますが(苦笑)。実際の自分の想いが、なんのギミックもなくただただ表出しているという意味ではちょっとアホなところもある気がしますけど(苦笑)、歌ってそういうものなんだろうし、当時の僕は自分なりのソウルミュージックを書いているつもりだったんでしょうね。

――アルバム9曲目の『君が昔愛した人』は「イカ天」最後の曲です。時間のない中、スタジオには2回くらいしか入らずに作ったと聞いています。

 最初はコード進行しかなかったんですが、それを聴いていたらなんだか切ない気持ちになって、そろそろラブソングを書こうと思ったのかな。歌詞のモチーフになっているのは当時の自分の恋愛です。誰かを好きになった時の自分の感情の複雑さに、自分でも戸惑い、驚いて、そのことを書こうとしたつもりでしたけど、今、久しぶりに聴いて、それが予想以上にちゃんと収められててすごいなーと思いました(笑)。前向きに捉えようとしてるけれど、本音はそうでもないな、みたいなところとか。

“意味”とか“物語性”にオブラートをかけていたそれまでの4曲と違って、非常に個人的だし、湿り気を帯びている。そこが審査員の中ではちょっとした物議を醸してましたね。伊藤銀次さんは「そこが嫌だな」とおっしゃってた。僕の中では、こういうサウンドの中に敢えて“センチメンタリズム”を投入することでインパクトを与えることが狙いでもあったんですよ。久々に聴きましたけど、丸山さんのギターの鳴りっぷりに、驚いています(笑)。

(きのうの世界。宇都宮市昭和町。前列右が私。左は兄。後列は近所の緒方兄弟。最後列は母。)


インタビュー : 木村由理江