9. 絵を描く目、ものを見る目

――絵を描く人は“ものを見る目”が優れていると私は思っているんですが、絵を描くことは浜崎さんの作品作りにどんな影響を与えていますか。

 影響がないとは言えないと思いますけど、“絵の才能”を自分自身で強く感じていたわけではなくて、ちょっと他の人より上手いくらいかなーという程度だったので、大していい目線は持ってないと思いますよ。小学校の図工の時間に、自分の描いた絵を見て「輪郭を線で描いちゃうんだ、オレ」と気がついて「輪郭線を描いたらだめだよなー」と思いながら提出したこともありましたね。

――輪郭線を描いたらだめなんですか。

 見たものをそのまま写しとっていく作業が絵画だと思うし、それが“面で捉える”という発想だと思うんですよ。空に浮かぶ雲を絵にする時に雲の形を輪郭線で切りとっちゃったら、なんか違いますよね。そんな線、実際には見えてないわけだから。でも僕はつい線で形を描いてしまう。“面で捉える”のが苦手というか、できないんですね。版画で賞をもらったことがありますけど、あれは構造が面的だから、線で見ない感覚になれたのがよかったのかもしれないと今にして思います。高校3年生の時に通っていたあんでるせん絵画教室ではずーっと石膏像のデッサンをしてましたけど、石膏像にリアルな輪郭線はありませんから、その時にやっと輪郭線を描かずに物体を表現する方法に気がつきました。水彩画がいまだにすごく苦手なのも、その辺に理由があるんでしょうね。絵に限らず、線で見ちゃうというのは問題だなと、自分では思ってます。

――というと?

 何かを簡単にしようとするというか、わかりやすくなるようにデフォルメしようとする意識がすぐに働いちゃってるんだと思うんですよ。何か問題が起きた時も、その本質を掘り下げたりディテールを確かめようとするのではなく、“こういうことだろう”とまとめて処理しようとしすぎちゃうっていうか。そういうのが、よくないなと思ってます。

――漫画の影響でしょうか。

 漫画の影響は強いと思います。漫画家の浦沢直樹さんという“線で捉える天才”と食事をした時に、漫画に出てくる拳銃を構えるシーンを説明しようと、浦沢さんが実際にやって見せてくれたんですけど、その時の浦沢さんの手の動きが漫画のまんまなんですよね。自分の動きや見たものの動きを二次元に翻訳する能力がめちゃくちゃ高い。“一流ってこういうことだ!”って感動しました。

(漫画家・浦沢直樹さんが書いてくれたFLYING KIDSのイメージイラスト。)


インタビュー : 木村由理江