137. “1日1曲”くらいの勢いで過ごしていた日々
――ソロ第一弾シングル『ココロの底』のカップリング曲『呼吸のしるし』は根岸孝旨さんのプロデュースでした。
FLYING KIDS時代も一緒に仕事をしていた根岸さんには安心していろんなことを任せられたし、非常にいい雰囲気でソロの最初のステップを踏むことができました。根岸さんが声をかけてくれたドラムの小田原豊さん、キーボードの柴田俊文さんと4人でセッションしながら『呼吸のしるし』と『ヒカリの春』の2曲を録り終えてやっと、ソロの方向性が自分の中で少しだけ見えた気がしました。そこから『どんな気持ちだい』、『誰かが誰かに』、『静かなる暮らし』、『テノヒラ』と作り・・。あの頃は自宅にデモテープを録音できるシステムも作って、1日1曲作るくらいの勢いで毎日過ごしてました。未発表曲のデモテープはいっぱい残ってますよ。
――無事ソロデビューを果たしたわけですが、FLYING KIDSのラストコンサートからの約10ヶ月、かなり慌ただしかったですね。
確かに状況は混乱していましたね。でも早くシングルを出すことで、心配してくれているであろうファンの人たちを安心させたかった。だから僕も頑張れたんだと思います。方向性が明確になっていたわけではないので、「とりあえずこんなものができました」という感覚に近かったかな。いろんな人のエネルギーが“ソロ・浜崎貴司”という旗に集まって出来上がった作品だったと思います。
――『ココロの底』から約7ヶ月後、1999年6月23日にリリースされたのがソロ第2弾シングル『どんな気持ちだい?』。プロデュースはムーンライダースの白井良明さんです。
白井さんの作品は以前から好きでしたし、当時白井さんがプロデュースした楽曲のアレンジの斬新さに意表をつかれていたこともあり、「ぜひ」とお願いしました。良明さんは本来シンプルだったコード進行を、細かく複雑にコードが変わる進行にしてくれたんですが、これは僕のリクエストでした。おかげで奥行きのあるアレンジになった。デモテープはボブ・ディランみたいな雰囲気だったのに、骨太なロックに仕上がりました。
良明さんのギターが歪んでいるのも、僕のリクエストです。グランジに影響を受けていた頃だったので、ギターの音が歪んでいるかどうかが当時の僕にとって非常に重要だったんです。そのためにロシア製のビッグマフというエフェクターを買いに行ったりもしたし。とはいえ良明さんのギターの歪ませ方は予想を超えてましたけどね(笑)。
――歌詞に登場する二人の関係は穏やかでもあり不穏でもある。ハラハラします。
誰かと誰かがわかり合うことは可能だ、と若い頃は思っていましたけど、30代にもなるとそんなのは幻想で、人と人は結局わかり合えないというのが現実じゃないか、と感じることが増えてきて。でも互いにわかり合えなくても恋愛や結婚は成立するわけで、付き合い始めの頃の「今日、何してたの?」みたいなやり取りがなくなっても、二人の日々は何の問題もなく過ぎていくんですよね。時にはいろんなことを相手に確かめたい気持ちにもなるけれど、それがわからなくても構わないよ、というようなことを歌っています。FLYING KIDSでは割と大きなテーマを歌にすることが多かったので、ソロではもっと些細なことを取り上げつつ文学的な要素も加えた歌詞にしたいと考えてトライしました。

(シングル「どんな気持ちだい」のポスター。撮影は伊島薫さん。デザインは林修三さん。)
インタビュー : 木村由理江

