139. 『誰かが誰かに』は少し優等生すぎて気恥ずかしい
――ソロ第二弾『どんな気持ちだい?』ができた時には、多少は方向性が定まっていたのでしょうか?
まだ混乱してました。「もっとポップで華やかな路線で行くのかと思っていた」と言われたこともあるから、みんなが思い描いていた“浜崎貴司のソロ”とはかけ離れていたかもしれない。『どんな気持ちだい?』を2枚目のシングルにしたのはスタッフからの提案でもありましたけど、僕自身もこの曲で「みなさんが考えているのとは別の路線を目指しているんですよ」と伝えたいと思ってました。ただ路線とは関係無しに「いい曲だね」と感じさせるほどのポップさは少し足りなかったんでしょうね。今思うと、シングル向きの曲じゃなかったのかな。ファンの人たちの戸惑いは、より深まったかもしれないです。
――ソロ第三弾『誰かが誰かに』が発売されたのは1999年10月5日。『静かなる暮らし』と同じく柴田俊文さんのプロデュースです。
たくさん曲を作っていた頃の1曲です。デモテープを聴いたスタッフの勧めでシングル用に仕上げました。『呼吸のしるし』、『どんな気持ちだい?』とダークサイドに目を向けた曲が続いていたので、バランスをとって日の当たるところだけで書いた気がします。少しも捻ってないし、悩まず素直に作りましたね。ただ少し優等生過ぎて気恥ずかしいというか。それでライヴではあまり歌っていないんですよ。
ソロ最初の“ghost”では“誰もが驚くような作品”を狙ってましたけど、少しずつ軌道修正して、この時期はたくさんの人に受け入れてもらえる音楽作りを意識してましたね。それがスタッフの意向でもあり、僕自身、その中で何が見えてくるかを探ろうともしていました。
多重録音のコーラスもよくできていると思うし、二つのメロディが出てくるサビの作りが特徴的ですよね。エンディングのファルセットは、あの時にしか出せなかったものなので、今聴いて、「この時のオレ、いいなー」と思いました。
――カップリング曲は『瞬間接着愛』。高野寛さん、紀里谷和明さんの名前もクレジットにありますから、ghostで作っていた曲ということですね。
そうです。当時のタイトルは『SONIC CITY SURVIVER』。高野さんのコーラスが残っているから、録り直したのは歌だけかな。うまくハマらず途中で作業が止まっていた歌詞を、田中花乃さんとやりとりしながら仕上げ、タイトルも変えました。でも必要なかったですね。ミニアルバム『2002』(2002年12月8日発売)に収録したライヴヴァージョンのタイトルは『SONIC CITY SURVIVER~瞬間接着愛』にしました。
“SONIC CITY SURVIVER”という言葉は紀里谷さんから出たはず。今ほどではなかったけれど時代のテンポ感は加速し続けていましたから、コンピューターをはじめとする様々な技術の進化と普及によって生まれてくるであろうスピード感に満ちた情報過多の世界を、僕たちはどうサバイヴしていくのか、そんな時代にキャッチする愛とはどんなものか、というのが歌詞のテーマです。刹那が過ぎるからこそ愛だけは永遠であってほしいという願いが“瞬間接着愛”というタイトルに繋がった気がします。瞬間接着剤みたいに、くっ付いたらもう離れない愛、というか。歌詞の一部をカタカナ表記にしたのは、映画『2001年宇宙の旅』(1968年)のHAL 9000のような人工知能を備えたコンピューターが送るメッセージのイメージです。完成したあとに紀里谷さんと高野さんに「こんなふうになりました」と報告した記憶があります。

(2004年に紀里谷和明さんが監督した映画「CASSHERN」に出演した時の一場面。左は西島秀俊さん。)
インタビュー : 木村由理江

