136. ギリギリまで歌い直したソロデビュー曲『ココロの底』
――待望のソロ第一弾シングル『ココロの底』は1998年12月2日に発売。クレジットに紀里谷さんと高野さんの名前がありますから、幻のユニット“ghost”で作った曲ということですね。
僕が持っていったモチーフを元に3人で仕上げた曲を、ソロ用に作り直しました。デモテープでは8ビートの、ザ・ローリング・ストーンズ的なニュアンスだったはずです。ストリングスを含めたアレンジは、HAASとクレジットされている高野さんがほとんど考えたものだし、デビューシングルのジャケットとポスターの写真、デザインは紀里谷さんがやってくれた。“ghost”でのデビューはありませんでしたけど、3人で一緒にやったことにはちゃんと意味はあったと思っています。
――『ココロの底』の歌詞には、田中花乃さんの名前もクレジットされています。
新しい歌詞の世界を僕なりに模索していた時に、スタッフから「誰かと一緒にやったらどうだ」と紹介されたのが、当時19歳くらいだった花乃さんでした。『風の吹き抜ける場所へ』の時にも同じような提案をされて、最初はコピーライターの女性とやり取りしながら作業していたんですが、最終的にゼロから自分で歌詞を書いたということがありまして。すごくいい刺激にはなりましたけど、申し訳なかったなという気持ちが強くて。だから正直あまり乗り気じゃなかったんですが、僕にはない彼女の若い感性を尊重できそうな気がして一緒にやってみました。うまくコラボレーションできたと思います。
歌詞は往復書簡的にやり取りしながら、いいなと思った彼女の言葉のいくつかを組み込んで仕上げました。今となってはどの辺が彼女の言葉かまったくわかりませんけど、ロマンティックでわかりやすい表現になったのは花乃さんの存在が大きいですね。タイトルの“ココロの底”も、彼女の提案だった気がします。“人間とは何か”を追いかけて、自分の心の奥にあるものをちゃんと表現できるようになっていこうという僕の想いが、この言葉を選ばせたんでしょうね。この曲でどこまで深くそれができているかは、なんとも言えないところですが・・。
歌はギリギリまで歌い直しました。“ソロで自分が歌うべきことは何か”がまだ客観視できていませんでしたから、内容や表現に関して毎日気持ちが変わるんですよ。書き直して歌っても、翌日にはまた「本当にこれでいいのか?」と迷いが生まれる。この曲を僕がライヴであまり歌わないのは、いまだに歌詞について思うところがあるからかもしれないですね。次に作った『呼吸のしるし』の方が、納得のいく完成度になった気がします。
――『呼吸のしるし』は『ココロの底』のカップリング曲です。
ソロで行くと決めて、一人で曲作りを始めた頃の楽曲です。アコギで作った曲はFLYING KIDS時代も「ソロっぽいね」と言われることが多かったので、原点に立ち返る気持ちでアコギを使っていました。何曲かまとめた最初のデモテープを聴いたスタッフが、「これ、仕上げましょうよ」と言ってくれたのが『呼吸のしるし』でした。1970年代に話題になった“ノストラダムスの大予言”が再びあちこちで取り上げられたり、『エヴァンゲリオン』のようなアニメが登場したり、なんとも言えない世紀末の不穏な空気が世の中に漂っていた時期でしたから、自分の生き方の目標でもある、“どんなネガティヴなものの中にも光を見出していこう”ということを歌にしようとしたはずです。花乃さんの協力もあり、納得できる内容になりました。タイトルも花乃さんの提案だった気がする。

(ソロデビューシングルのポスター。写真は紀里谷和明さん。)
インタビュー : 木村由理江
