95.ボツになった提供曲を流用するというアイディア
――アルバム『Communication』4曲目は『男の子でも女の子でも』です。
この曲は僕が中心になって作りました。アルバム『FLYING KIDS』やシングル『恋の瞬間』の頃から“青春の甘酸っぱさ”を凝縮して歌にしたいという想いが強くなっていて、初期の頃は無自覚に歌ってた“青春”を真正面から取り上げて、青春の風景としての夏の海を爽やかに描いてみようと考えてました。サザンオールスターズも意識していたと思いますけど。聴きどころはキャッチーなアレンジのホーンですね。これがすごく気持ちいい。小林正弘さん(トランペット)と菅坡雅彦さん(トランペット)と小池修さん(テナーサックス)と吉永寿さん(テナーサックス)がとてもいい仕事をしてくれました。
サビのフレーズも気に入っているし、思い描いていたことはできたと思っていますけど、全体的に歌詞のレベルをもっと上げたかったという悔いが残っています。それからやっぱりちょっと爽やかすぎた(苦笑)。この爽やかさに耐えきれず、世界観としては完成しているけれどバンドとしてやるにはちょっと・・と徐々にライヴで演奏しなくなりましたね。
――『君に告げよう』に続く6曲目の『天使気分はジゴクの底まで』は大人の雰囲気です。
曲のアイディアが出なくて苦しんでいた時に、ピチカートファイヴの小西康陽さんに頼まれてある男性アーティストに書いてボツになった曲を流用しようと思いついたんですよ。「あの曲、コード進行を逆にして作り直すのはどうだろう」と。苦し紛れですね(苦笑)。それをうまくまとめてくれたメンバーのすごさを感じます。最初は「ちょっと違うなー」と浮かない顔でしたけど、コード進行を逆にしたことでそれまでにないマイナーキーで、ちょっと洗練された雰囲気の曲に仕上がっていくにつれてどんどん入り込んでくれた。
歌詞も流用です。自分で歌う時には書かないような愛の想いをストレートに表現していますね。他の人に書いた歌詞ですけど、自分のリアルな想いもすごく込められています。少し前まで永遠を願う恋愛の歌を書いていたのに、この頃になると刹那的な歌が多くなっているのは、「明日がどうなるかわからん」みたいな暮らしだったのかもしれないですね。
確かこの曲のイントロだったと思いますが、キーボードを弾く飯野さんの脇で「その音をこっちの音にして」とずーっと細かく指定してたら、飯野さんが怒ってそのまま帰っちゃったことがありました。いつもみんなを車で送っていたフセマンと中園さんが「乗せていくよ」と声をかけても「いいっ!」って断固拒否して。「気まずいなー」と思って翌日スタジオにいたら、「おはよー」と飯野さんが何もなかったかのように入ってきて、普通に作業が始まった。その時に「バンドってすげえな」と思いました(笑)。
――浜崎さんこだわりが強い時期だったんですね。
この曲はとくに強かったんだと思います。言葉で説明できる世界観ではなかったし、本来歌ってもらうはずだった人に「あ、こういう曲だったんだ」と理解してもらえるものにしたいとも思ってましたから。このあとにも僕のこだわりが炸裂して、丸山さんのギターソロを僕が編集したこともありました。それに付き合うメンバーは大変だったと思います。そこまでこだわってつまらないものになったら信頼関係は失われますから、「絶対にいいものにしなくてはいけない」といつも自分に言い聞かせてました。

(当時ファッション雑誌でモデルを務めたときのもの。)
インタビュー : 木村由理江