56.「もっとやれたはずなのに・・」とライブのあとはいつも思っていた

――シングル『新しい方々』の2曲目のカップリングは『はじけそうだぜ−マッチョズ愛のテーマ―』です。

 今となっては問題作ですが、メロディ自体はすごくいいんですよ。アレンジもかわいいし、飯野さんとフセマンの歌が、中途半端に下手なのもいい。飯野さんとフセマンの“マッチョズ”のアイディアを出したのは僕だという話は以前しましたけど、「マッチョズでバラードを作ろう」と提案したのも僕です。「“はじけそうだぜ”って歌ったらおもしろいんじゃない?」と、作る前からひとりで盛り上がってました。みんなでおもしろがりながら歌詞と曲をサクサク作ったはずです。この頃まで、カップリングは型破りで構わない、自分たちが楽しめるものでいいという感覚がすごく強かったですね。

――2度目の全国ツアー“新しい方々”(3/6~4/29 全11本)で印象に残っていることはありますか。

 地方は予想以上に動員が厳しいな、とは感じたことくらいです。当時はまだお酒もあまり飲まなかったし、メンバー同士の打ち上げ自体、そんなにしてなかった気がします。そもそも僕は打ち上げに乗り気な方じゃなかったし、当時はいろんな人と会って話したりもしなかったから、すごく孤独な感じでした。地方で行くとしたらラーメン屋ぐらいだった気がする。あとはレコード屋。掘り出し物のレコードを見つけて「やったー!」とか。かわいいものでしたね。

――浜崎さん自身、あまり人を寄せ付けないようなところもあったんでしょうか。

 「盛り上がった! 楽しかった!」より「もっとやれたはずなのに・・」という残念な想いの方が強くて、ライブのあとは毎回暗くなっていたのは確かです。はっきり言うと、機嫌が悪かった(苦笑)。少し時間が経つといつもの感じに戻るんですけどね。

――ステージ上でエネルギーを消費しすぎて、クタクタになってもいたんでしょうね。

 血糖値も多分、下がりまくってたと思います。それくらいステージでみなさんに全精力を捧げてた、ということですね。「もっともっと」という意識でエネルギーを使い果たしていたから、興奮が収まらなかったのかもしれない。「こいつ、めんどくさいやつだなー」とメンバーは思っていたでしょうけど、放っておいてくれました。

――地方では楽屋口や駅の改札でファンが待っていたりもしたのでは?

 ホテルのロビーに来ていた女の子もいましたよ。でも嬉しさより恥ずかしい気持ちの方が大きかったですね。「“本当のオレ”なんて知ってもきっとつまらないから、遠くにいてください」、「できるならオレを見ないでください」と思ってた。案外謙虚な人だったんですよ。

(子供の頃の夏。アイスを食べながら宇都宮の総合グランドへ。先頭が私。道路がまだ舗装されていませんでした。)


インタビュー : 木村由理江