50.“苦しさ”も込めていた『長い道のり』が、今は違って聴こえる

――アルバム『新しき魂の光と道』の6曲目は『長い道のり』です。

 歌詞のイメージとなんとなくのサビのメロディは大阪からの新幹線の中で思いついたんですよ。関西にライブに行った帰りだったはずだから、1989年12月とかデビュー直前の3月かな。それをメンバーに伝えたら加藤か丸山さんのどちらかが、いきなりギターを出して「こんな感じ?」ってチラッと弾いたような気もする・・。

――えっ、新幹線の中で?

当時はまだ世の中に“昭和”の気配がちょっと残っていて、新幹線の座席でタバコも吸えた。おおらかだったんですよ。翌日くらいにスタジオに入ったら、あっという間に出来上がりました。

 願いが叶わないことも、誰かとつながり合えないこともあるだろうけど、そんなこと気にするなよ、まだまだ先へ行かなきゃいけないんだから、と前向きに歌っていますけど、当時はもうちょっと悲観的な気分でしたね。その頃の僕は、大げさに言うと“命を削る”ような感覚で日々楽曲作りに打ち込んでいたし、そういった“生きる苦しさ”も歌詞に込めていましたから、単純に前向きにはなれなかった。でも今、久しぶりに聴いて、長い道のりの先にまだ見えていない答えが待ってるかもしれないよ、まだなにも終わってないよ、という希望みたいなものが隠れていると感じてホッとしました(笑)。間奏のギターもかっこいいですよね。これはプリンスの影響かな。

――7曲目の『変化の兆し』の歌詞は、今の時代にも響きます。作曲は伏島さんです。

 フセマンが作ってきた曲をベースにみんなでセッションしながら、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『ハイヤー!』(1969年)をイメージして仕上げました。ただ歌詞の内容は本家とはほぼ真逆ですね。“君の気分を上げてあげるよ”という本家に対してこっちは“先が見えない、何が起きるかわからないから気をつけなきゃ”と歌っている。湾岸戦争が起きたり東西ベルリンの壁やソ連の崩壊が崩壊したりと激動の時期でしたから、気になる事象をニュースショー的に切り取って、解釈や整理をせずに、ストレートにその時の想いをぶつけたんだと思います。

――続く8曲目の『陸の王者大行進』は、“陸の王者大行進 イエーイエーイエー”という歌詞を繰り返すだけの曲。ヴォーカルは浜崎さんとマッチョズ。じゅんちゃんと丸山さんと中園さんがそれぞれ、キハダ、ボンゴ、コンガも演奏しています。

 1970年代のアメリカの刑事ドラマで流れそうな曲ですよね。定かではないですが、ベースになったのは飯野さんと丸山さんが作ってきたコード進行とちょっとしたメロディのモチーフだったと思います。最初の時点ですでにそういう雰囲気があって、その色合いを一層強めていこうとみんなで仕上げたんでしょうね。加藤が“アチョー“と叫んでいるのは、多分、僕が「ブルース・リーもそこに混ぜちゃえ」みたいなことを言い出したから。めちゃくちゃ上手にできてますね(笑)。じゅんちゃんのキーの高い声もいいし。最後の高笑いはフセマンか飯野さん。終わり方も素晴らしいです。

――クレジットには“指揮:浜崎貴司”とありますが、これは?

だんだんテンポがゆっくりになる部分があるので、音に合わせて僕が指揮をしたビデオを撮って、それを観ながら追加のダビングをメンバーにしてもらおうとしたんですよね。結局、そんなにうまくはいかなかったんだけど・・(苦笑)。“陸の王者大行進”という言葉は僕が思いついちゃったんでしょう。意味は考えずに響きとイメージだけで、これだ! と。“空の王者”ならわからないでもないけど・・。なんで陸だったのか。謎ですね。

(中学時代から大学生頃まで浜崎家で飼っていたマル。私が書くサインにたまにイラストで登場します。)


インタビュー : 木村由理江