166. 誰かに怒られそうな気がした『誰よりも君を愛す』のアレンジ
――『誰よりも君を愛す』のカバーはアレンジも斬新です。
ジャズファンクですよね。しかもベースが弾くコードはほとんど動かず、ほぼ同じフレーズを繰り返すだけ。その上に歌と他の楽器が載って、歌が進むにつれて演奏が少しずつ肉付けされ、内容に寄り添うような雰囲気になっていく。最初はベースのコードがほとんど動かないことに、ちょっと不安がありました。誰かに怒られそうな気がしたというか(苦笑)。かなりアグレッシヴなアレンジなのに成功しているのは、堺敦生さん、山田裕之くん、波田野哲也くん、そこに加わった武田和大くんが「浜崎の歌を引き立てるんだ」という強い想いで演奏してくれたからだと思います。僕はこの曲が持っているポテンシャルを最大限引き出そうと、楽器を弾かずに歌に専念しました。ちょっと狂気めいた、本能を感じさせるシャウトとか、今じゃちょっと思いつかないような歌ですけど、歌心が前面に出てるんじゃないでしょうか。僕が歌いたいのはこういう歌なんですよね。この歌が残せてよかったです。
この曲の武田くんもいいですよね。大学時代からの付き合いですから気心も知れているし、久々に一緒にやって、的を外さない彼の音楽センスを再確認しました、
――8曲目は『KHAOS~その先へ』。アルバム『AIと身体のSWING』の締めの曲です。
ソロになりたての頃に作った曲で、ソロ初のフリーライブ(1998年9月27日 LINES LINE UP@代々木公園野外ステージ)でも演奏しました。キーボードを弾いてくれた小川文明さんも「すごくいいね」と言ってくれたし、自分でも気に入っていて、よく『呼吸のしるし』と一緒に弾き語りで披露してました。ただ当時のスタッフの後押しがあまり得られず、アルバム『新呼吸』には収録できなかった。スピードスターミュージックに移籍後、たまに弾き語りで歌っていたら、何度かリクエストされたりもしたので「今ならどうかな」と。メンバーの評判もすごくよくて、レコーディングのリハーサルを重ねながらさらに磨き、大サビの〔確かにそんなことは〕のあたりのコード進行は少し変えました。
歌詞はほぼ僕が書いていますが、2コーラス目の〔コイン〕が出てくるあたりのモチーフは、当時、歌詞を少し手伝ってくれていた田中花乃さんが出してくれた気がします。
『あなたとキスをしてはいけない』でも話しましたけど、僕の中には、人間は常に“愛と憎しみ”とか“聖なるものと穢れ”とか、相反する要素を内側に抱えているとか、生きることは清濁併せ飲むことだ、という感覚が根源的にあるんです。それは『幸せであるように』にも内在していたテーマであって。ただFLYING KIDSでそれを表現するのは難しく、ポップスというオブラートに包むしかなかった。ソロになったら正面から取り組みたいテーマだったし、オブラートなしに書いた、最初の曲じゃないかな。
目線が外に向いている曲だから、アルバム『AIと身体のSWING』の締めに相応しいんでしょうけど、アルバム『新呼吸』に収録したかった気もします。当時はもっとテンポが速かったから、全然違う印象だったと思う。表現のしやすさを考えてスローにしたところに、発表までにかかった時間が反映されているんでしょうね。だからこそ伝えたいものをちゃんと表現できたとも言えるんでしょうけど。

(中学生の時、兄と弟とマル。3人でキャッチボールをよくしていました。FLYING KIDS「一日の終わり」の歌詞に出てくる場面。)
インタビュー : 木村由理江

