165. ひとつのジャンルに括れないのがソロ・浜崎の音楽性という気づき

――『あなたとキスをしてはいけない』のテーマについて教えてください。

 人間のモラルと欲望、ですね。誰もがその両方の間を行ったり来たりしながら生きていると僕は思っているし、それは人間を創造した“大いなる存在”が与えた試練だと僕は考えているので、“神の戒め”というフレーズも出てきます。神聖だったり純粋だったりするものの後ろ側には、それとは裏腹な醜い穢れたものがあるという自分の目線を歌にできたので、僕としても非常に嬉しかったです。

――ギターと控えめなキーボードだけで始まって、後半に向けて音が増えていくアレンジも印象的です。

 セッションしながらみんなでまとめまたアレンジですけど、ハープとかメロトロンの音は、堺敦生さんが自主的に加えてくれたんじゃないかな。土台のテンポはスローだけどグルーヴしてて、その上にクラシカルな楽器の音が載っかるのは、非常に斬新ですよね。前回、曲想を得た時にビョークのアルバムを聴いていたと話しましたけど、当時はオルタナティヴ系の女性シンガーの、非常に挑戦的なのに最終的にポップスとして成立させてしまう切れ味の鋭い音楽にとても影響を受けていまして。フィオナ・アプルとか、すごく好きだったなー。あとエイミー・マン。彼女も僕の中ではオルタナティヴな女性シンガーの枠に入っていて、彼女の曲を中心に構成された映画『マグノリア』(1999年)のサウンドトラックもよく聴いてました。

 この曲、曲調はどこか昔の映画音楽みたいな雰囲気があって、歌詞も少し文学的だったりする。正統派ポップスではないですよね。でもだからといってひとつのジャンルに括れそうにもない。もしかしたらこういう音楽が、ソロとしての自分が辿り着いた音楽世界なのかもしれないなと、この曲ができた時に思いました。今聴いても「とてもいいな」と思います。

――弾き語りライブでもたまに歌っていますよね。

 キーが高すぎて歌えなかった時期が数年ありましたけど、身体的なトレーニングの成果もあって声が出るようになりました。気持ちが入らないと歌えないので、毎回とはいきませんけど、「今日は歌おう」という気持ちになる時は、いい歌が歌えている気がします。

――アルバム『AIと身体のSWING』の7曲目は松尾和子さんと和田弘とマヒナスターズの『誰よりも君を愛す』(1959年)のカバーです。どうしてこの曲をカバーしようと?

  90年代初頭にあった、東京パノラママンボボーイズのイベント(@渋谷ON AIR)にゲストで登場した松尾和子さんの歌が素晴らしかったんですよ。それで2001年秋、雑誌『BREaTH』のイベント“Brown Suger 2”@ON AIR EASTで“持ち曲以外の日本語曲を演奏する”というお題をいただいた時に、ちょっと歌ってみよう、と。感触がすごくよかったので、レコーディングしました。

――オリジナルは1959年12月に発売され、翌年の第2回レコード大賞の大賞を受賞。作曲は吉田正さん、作詞は川内康範さんと、どちらも昭和歌謡の大御所です。

 歌詞がとくにいいんですよ。〔誰よりも 誰よりも 君を愛す〕なんてど直球、現代の人は照れ臭くて書けないですからね。でもその直球ぶりが僕の声や歌の世界にちょっと近い気がしたし、この歌が内包する欲望と純粋さを僕なりの角度で表現したら、また違う魅力を伝えられるんじゃないかと思っています。

(AIと身体のSWINGのジャケット撮影の時のもの。当時36歳。撮影はakioさん。)


インタビュー : 木村由理江