160. 『boot』シリーズ2作は“ソロの原点”
――4曲入りの『boot 2』の最後は『越冬』です。
こういうジャンルのよくわからない楽曲を、毎日のように作っていた時期がありまして。いっぱいボツにしましたけど、これは曲の構造とメロディの展開が斬新だったから残したんでしょうね。
歌詞には当時の自分の暮らしぶりや心情そのままの描き出されています。ソロになってから遭遇したいろんなトラブルとか音楽家として自分が感じていたいろんな壁とか、そういういろんなものを越えたいんだけど本当に越えられているのかどうか、自分でもよくわからないまま、冬を迎えて当時近所だった早稲田界隈や明治通り沿いを「さみーな」とブツブツ言いながらトボトボ歩いていたことを、思い出しました(苦笑)。
――『boot』シリーズは浜崎さんにとってどんなものでしたか。
のちにHAMAZAKI BANDと呼ぶことになるメンバーと作った、ジャズ、ソウル、ブルースの要素を取り入れた『俺はまたいつかいなくなるから』から始まる数作がありますが、『boot』は“ソロの原点”という気がします。もともと僕が音楽を好きになったきっかけはザ・ビートルズの『You’ve Got to Hide Your Love Away(邦題:悲しみをぶっ飛ばせ)』(1965年)で、あれはジョン・レノンの弾き語り曲。アコースティック・ギターの音とそこに歌声だけが載るシンプルなスタイルにすごく惹かれたんですよ。だからボブ・ディランも好きになったんでしょう。自分でアコギを弾きながら歌うのも最初から嫌いじゃなかったし、アコギと歌だけのデモテープも結構気に入ってました。ただ僕はバンドでデビューしましたから、ソロになってからも「自分はバンドで歌うものだ」と思っていて、たまにやるインストアライブやファンクラブイベントでの弾き語りがファンの人たちに評判がよくても、「ヴォーカリストとしてやってきた人間の弾き語りだから・・」とそれを前面に押し出す気持ちにはなれなかった。弾き語りのアルバムやツアーなんて滅相もない、みたいな。ちょっと卑下していたというか。でもインディーズという形ではありましたけど、『boot』シリーズをみんなに聴いてもらえたことで、仮にこの先、自分がすべて(レーベルや事務所の契約など)を失ったとしても弾き語りというスタイルがある、と思えるようになったのも確かです。『boot』シリーズは2枚で終わりましたけど、これがのちに“GACHI”や“終わりなき一人旅“、さらにはアルバム『ガチダチ』にもつながっていく。この作品で今の自分につながる相当重要な鍵を開けたと言えるんじゃないでしょうか。
――大事な作品なのに、あまり注目されてないまま現在に至っている気がします。ぜひサブスクでチェックしていただきたいですね。
ジャンル分けできない楽曲ばかりかもしれないけど、“浜崎貴司の歌声と歌詞の世界”がダイレクトに伝わると思います。『boot』を企画していた頃は次のアルバムの話もまだ出てなかったから、インディーズではあっても作品を世に出せるのは非常にありがたかったです。自分の新しいスタイルを模索して、道なき道を進んでいた時期でした。

(実家で飼っていた犬のマル。)
インタビュー : 木村由理江

