159. 「重要なのは理屈じゃない感覚を歌に封じ込めること」
――『boot 2』は4曲入り。2曲目は『聖人君子』です。
9.11(アメリカ同時多発テロ事件)のあとに作った曲じゃないかな。
――『boot 2』を限定販売したイベント「ECHOSOPHY」の初回は10月4日ですけど。
そうか。ちょっとギリかな・・。でもモチーフになっているのは、神の教えが戦争の引き金になってしまうという宗教が持つ不条理さと、進化の結果、神の領域をも侵そうとする人間の愚かさで、僕はそれを9.11で感じた。あれからもう四半世紀経っているのに、状況は少しもよくなっていない。今、この曲を聴くと、またいろんな想いになりますね。
僕にとって非常に新機軸な曲でしたけど、再構築はしませんでした。ちょっと理屈っぽい気がして、これで終わりにしたんだと思います。重要なのは、理屈じゃない感覚を歌に封じ込めることで、それは理屈で作るよりはるかに難しい。『時はただ今だけを乗せて』では、それがちゃんとできていた。当時の自分はそういう意識で曲を作っていたんだと、久々に聴いて改めて感じました。でもその理屈っぽいところがこの曲のよさでもあるのも確か。今のFLYING KIDSでやったらどんな感じになるんだろうなー。
――9.11というと私は、浜崎さんがその夜、渋谷ON AIR EASTのイベントに出演していたことを思い出します。それを観ていた知り合いと食事をしていた時に飛び込んできたニュースなので。
矢野真紀さんとF.O.H.と出ていたイベントですね。午前中、会場に向かう道すがら、街にいろんなものが散乱していて、「昨日の台風すごかったね」とみんなで話したりしてたんですよ。で、イベントの打ち上げをしていたら誰かが「ニューヨークのワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んだ」って。にわかには信じられなかったけど、家に帰ってニュース映像を確認して言葉を失いました。しかも倒壊してしまう・・。自分の目で直接見たことのある景色でしたから、なおさら衝撃は大きかったです。
――3曲目は『日生処の詩(demo version)』です。アルバム『俺はまたいつかいなくなるから』ですでに発表した作品のデモバージョンを、なぜ収録しようと?
これは最初のデモテープの音源ですから、両方を聴き比べて、違いや変化を楽しんでほしいと思ったんでしょう。アルバムバージョンのほうが正解だという気がしますけど、テーマにした渋谷の街の雑踏とかカオスな感じは、こっちの方が表現されているんじゃないかな。
――少しスローで、浜崎さんが弾き語りライブで披露する時のテンポに近いですよね。
この間の取材で久々にアルバムバージョンを聴いて、そのあとのライブでは少し速いテンポで演奏してみました。この曲は、なんというか、いまだに手に負えない感覚がありますね。もっとポップに仕上げてもよかったのかな、と今になって思ったり・・。“自分が作った感”が希薄な曲は他にもあるけど、この曲はとくに薄いですね。純粋に作っているが故に自分の想定以上のものが収められているというか。まだこの曲をちゃんと理解できていない気がします。楽曲はふとしたきっかけで急に理解が深まったりするから、この先訪れるであろうその時を楽しみにしたいですね。そしたら僕の歌も、また違ってくるだろうし。

(宇都宮市塙田にあった母の実家。右から伯母、祖母、祖父、母、伯母の夫。この家で「時はただ今だけを乗せて」を作った。)
インタビュー : 木村由理江

