157. 『boot』に残る試行錯誤の跡
――『boot 1』の2曲目は『桜の園』。ロシアの作家、アントン・チェーホフ(1860~1904)の有名な戯曲と同じタイトルです。
読んではいないけど、タイトルがずっと気になっていたんですよ。それから吉田秋生さんの漫画『桜の園』(創立記念日に毎年『桜の園』を上演する女子校の演劇部の物語)が原作の映画『桜の園』(1990年)も結構好きで。桜の木にぐるりと囲まれた学園に“青春”という名の結界が張られているというイメージがあって、それを歌にできる気がして書き始めたんですが思ったほど筆は進まず・・。こんな感じになりました。
よくやることなんですが、のちにこの曲のイメージを解体して、何曲か作っています。例えば、『ゴールデンタイム』(2014年4月23日)の『教室』とかFLYING KIDSの『LIFE WORKS JOURNEY』(2011年9月21日)の『エピローグ』とか。小泉今日子さんをフィーチャリングした『恋サクラビト』(アルバム『発情』収録 2004年1月28日)もそうかな。どの曲もテーマは“青春の孤独感”。思春期には誰もが、常に友達と一緒にいることで“自分は嫌われてない”という安心感を得たり、一方で人との付き合いを無性に煩わしく思ったりする。そういう時に感じる“孤独”です。あとは好きな子に想いが通じなくて絶望したり、全然興味のない子の告白に困惑したりする時なんかにも。
――子どもから大人への移行期で、気持ちも肉体も持て余す微妙な年頃ですからね。
〔方程式は解けなくて〕は、そういう混乱です。〔放課後が待ち遠しくて〕は、大人になりたいという想いなんでしょうね。
イントロとサビは、ボサノバ風に“調”をどんどん変化させています。「このコード進行で歌が作れるって発見だー」と一人で感動していました。気に入っていた曲ですが、ライブではほとんどやらないまま今に至っています。ライブで披露する前に、僕がアルバム『俺はまたいつかいなくなるから』のモードに入ってしまったので。ぜひ、サブスクで聴いてみてください。
――『boot 1』の最後の曲は『Musasino-2000』。翌年発売のアルバム『AIと身体のSWING』収録の『MUSASINO』のデモテープ音源ですね。
それも超初期の。ローランド社のVS-880という8トラックのデジタルハードディスクレコーダーを使って自宅で録ったはずです。VS-880はサイズもコンパクトでしたから、宇都宮の実家にも持って行ってましたね。自分の中からさらに新しい何かを引き出したくて、曲作りの場所を変えたり、いろいろ試していた時期でした。
テーマは、僕が東京で初めて住んだ街・(武蔵野市)吉祥寺です。新しい歌詞を発明できないかと試行錯誤していた頃で、ボブ・ディランを意識して、ありきたりではないテーマで、普段は手を出さない言葉やフレーズを駆使して書いてみたんです。それをブルースのコード進行に載せてみました。
――〔放火魔〕とか〔曼荼羅〕とか、確かに目を惹きます。
できた時には、正直、「変な歌ができたなー」と思いましたね。方向性は悪くないけど、大事なことを言い切れてない物足りなさがあるし、サキソフォンの音を表現した〔パパパパララパパパ〕で終わらせちゃったのも歌として弱いんじゃないか、と。ただデモテープならではの雰囲気がいい味を出しているので収録しました。作り直す気はなかったんですけどね・・。歌はボブ・ディランを真似ています。新しい歌の表現も模索していたんです。

(1985年から1990年くらいまで住んでいた吉祥寺のナカミチアパート。)
インタビュー : 木村由理江

