153. 「これを歌わないと次に進めない」という切実さを秘めた『TIME』
――『TIME』はアルバム『俺はまたいつかいなくなるから』の4曲目。当時の会報に『TIME』が登場するのは2001年1月23日で、「新曲に取り掛かる、新境地を目指す」とありました。堺敦生さんも作曲にクレジットされています。
堺さんや山田くんとよく一緒にスタジオに入って曲を作っていましたから、ある程度仕上げた歌詞に堺さんと一緒に曲をつけて、また続きの歌詞を書いて一緒に曲をつけるという作り方だったんでしょうね。コード進行が絶妙なのは、堺さんがうまくコントロールしてくれたおかげだと思います。
テーマは「それまでとは違う自分に向き合っていこう」です。僕はすごく恵まれていて、30代半ばまで“音楽”とだけ向き合っていられたんですが、事務所の移籍を経験して、音楽ビジネスのお金の動きを初めて理解するようになった。そこでやっと大人としての自覚が芽生えた、というか(苦笑)。さらに肉体的な“老化”や”衰え“を少し意識するようになって、「歳をとることを忘れたピーターパンのような歌が多かったけど、これからはむしろ自分の中年の部分も晒して、それを武器にしていこう」と考えるようにもなった。長く続けるには、それも必要だと思ったんでしょう。20年後のカーリングシトーンズでは平気でそんな歌ばっかり作ってますけど、ここで狼煙を挙げたと言えるんじゃないでしょうか。完成させたものの「ここまで歌っちゃった」という“苦味”みたいなものもあって、ちょっとドキドキもしました。実際、賛否両論あったし、あまり共感は呼ばなかった。今みたいに、ミック・ジャガーやキース・リチャーズのような80代のロックンローラーが当たり前なら別だったのかもしれませんけど、ちょっと早かったですね。でも自分としては「これを歌わないと次に進めない」という切実さがあったし、自分にとって非常に大きな作品です。
――最後に繰り返される〔苦難を抱えてたっぷり涙ながせ それでいい〕には、どんな想いが込められているのでしょう?
自分自身が“覚悟”を決めた時期でしたから、同じように微妙な年頃を苦労しながら突き進んでる人たちに向けた「みんな一緒だよ、苦しい時は泣きながらでもいいから一歩ずつ前に進み続けよう」という想いだった気がします。
――5曲目はザ・ビートルズの『All My Loving』のカバー。次はボーナストラックですから、アルバムとしてはの締めの曲になりますね。
4曲完成した時点で、あと1曲加えてミニアルバムにしようという話になりまして。どうしてもラブソングで締めたいという気持ちはありつつ自分では作れなかったので、シンプルだからこそ自分の本音に繋がるような曲をカバーしたいな、と。ビートルズのカバーは当時少なかったから、自分なりの解釈で聴かせたい気持ちもあったかもしれない。気軽に取り上げましたけど、許可を取るのはすごく大変だったみたいです(苦笑)。
アレンジのテーマは、静と動、優しさと残酷さといった、相反する要素の共存です。物事はすべて両面で成り立っていますから。メンバーが僕の意図を汲んでアレンジを作ってくれました。核になる楽器をシンセハープにしたのも、その音色を選んだのも僕ですけど、堺さんのロマンチックなアレンジと端正な演奏が素晴らしいですね。思いっきりハウらせて重ねた破壊的なギターや重量感のあるドラム、ベースの対比もいい感じですよね。

(ハマザキバンドのレコーディング風景。左がベースの山田裕之さん。右がキーボードの堺敦生さん。)
インタビュー : 木村由理江

