126. 飯野さんに嫉妬心も感じた『ある男のメロディー』
――8曲目の『暴走ワールドセールスマン』も浜崎さんの作詞・作曲です。
当時もヴァーチャルなゲームの世界にどっぷりハマってしまう人が結構いたんですよ。ヴァーチャルのクオリティは今とは全然違いましたけど。僕も当時はロールプレイングとか恋愛シミュレーションとか街づくりとかいろんなゲームをやっていて、人間の心理や社会の成り立ちみたいなものを単純化してゲームにしてしまうゲームクリエイターの目線にすごく興味を持っていました。その辺りからこの曲は始まった気がします。セールスマンのキャラクターは手塚治虫の漫画『火の鳥(望郷編)』に出てくる、ピュアな暮らしをしている人たちに酒やドラッグを売って享楽的な世界に誘い込んで金を稼ぐ“ズダーバン”に近い設定です。欲望をそそることで今の社会経済は支えられているわけで、別にそれに不満はないけど、その設定のおもしろさが自分としては気に入っています。ビートルズの『Taxman』のように風刺をきかせた短編小説のような歌詞を目指していました。
――ストレートに想いを綴った『Bridge』とは真逆ですね。
振り返ってみると、このアルバムではいろんなアプローチで歌詞を書いてますね。ピュアなものが多くなりがちなんですけど、アルバムとしてのバランスを考えて、なんとかバラエティに富んだものにしようとしていたんでしょう。“想いを大事に作品にしたいピュアな自分”と“求められるものに応えたい作家的な自分”。両方を行ったり来たりしながら必死に格闘している感じがありますね。
――この曲では中園さんの他にMr.Childrenの鈴木英哉さんがドラムを叩いています。
どんな経緯だったのかな・・。当時、左右のスピーカーから違うドラマーの音が聴こえてくる曲をおもしろがって聴いていて、それにチャレンジしたいと思ったんでしょうね。ミスチルとは番組で共演したり、下北沢の飲み屋で一緒になったりもしてましたから、こういう曲が得意そうなJEN(鈴木さんのこと)に、お願いしたのだと思います。
――10曲目の『ある男のメロディー』は飯野竜彦さんの作詞・作曲です。浜崎さんは歌い手に徹したということですね。
収録曲は事務所の社長と高野さんを含めたバンド内プレゼンで決めていましたけど、メンバーのプレゼンは断片やモチーフがほとんどでした。でもそれでは曲としてどこまで成立するかなかなか見えない。それで歌詞と曲が揃った状態でプレゼンした僕の曲が、結果的に多く(12曲中8曲)収録されることになったんだと思う。飯野さんのこの曲は、プレゼンの段階で全体のイメージはほぼ出来上がっていました。歌詞とコーラスのアレンジもできていたし、Aメロからしばらくメンバー全員で歌って、2コーラス目まで僕がリードヴォーカルを取らないというのも想定されていたし。童話のような歌詞とメロディの組み合わせも斬新で、何より聴いてると言葉の意味を超えた感動みたいなものが込み上げてくるところにこの楽曲のすごさを感じます。ジョージ・ハリスンの『Something』にも通じるピュアさあるし・・。飯野さんが作った曲の中で一番ですね。正直、僕は悔しかったし、飯野さんに嫉妬もしました。歌い始めたらそんな感情はどこかにいってしまいますけどね。
感動のポイントを作ってくれる曲なので、ライブでもこの曲でお客さんがすごく盛り上がってました。ズクナシという女性4人組がカバーしてくれて、再結成後に一度、ライブで一緒に演奏したこともありました。今はほとんどやりませんけど、FLYING KIDSの大事な財産です。

(シングル「真夏のブリザード」のCDジャケット用に撮影されたもの。)
インタビュー : 木村由理江

