104.今は出せない声が、音源には残っている
――アルバム『HOME TOWN』の3曲目の『ガードレールにもたれて』は浜崎さんテイストの強い曲で、メンバーの中には持ち味を発揮できなかった人もいたかもしれないとのことでしたが、アレンジはどのように進んだのでしょう?
飯野さんはアメリカンロックテイストのピアノが得意でしたから何の問題もなく対応してくれたし、丸山さんも技術が高いですから、あまり得意分野じゃないとは言いつつ間奏のギターソロなんかを見事に弾きこなしてくれています。メンバーが好きな音楽は“ファンク”以外にもありますから、そこから共通部分を拾って一緒に会話できるサウンドにした感じですね。FLYING KIDSの音楽のバリエーションを広げる中でそれぞれが新たに見つけた自分の得意分野が機能したところもあるだろうし。ただみんながバチっとハマったわけではなかったし、それでも合わせていこうとすることでの綻びが、この頃から生まれていたのかなという気がします。この曲はライヴでも盛り上がってましたから、当時は非常に重宝していましたね。
――『とまどいの時を越えて』に続く5曲目の『愛してる』はど直球なラブソングです。
歌詞と曲をある程度作ってスタジオに持っていった記憶があります。AOR的なところが“今までにないチャレンジ”と受け取られたのか、スタッフも含めみんな「いいね」と盛り上がってました。ファンクな要素がまるっきりないことは問題だと僕自身は引っかかってはいましたけど、ポップなFLYING KIDSに馴染んだスタッフはほとんどで気にすることもなかったから「これはこれでいいのかな」と作業を進めていきました。
アレンジはメンバーでしていますが、割と細かく僕が意見を出していた気がします。ハーモニカを入れたいと言ったのも、僕じゃないかな。吹いているのは丸山さんです。甘くて、切なくて、郷愁をそそる。曲にぴったりですよね。パーカッションの三沢またろうさんはこの頃、FLYING KIDSのレコーディングによく付き合ってくれてました。またろうさんは常に明るい人だから現場も盛り上がるし、サウンドも明るくなるんですよ。
今聴いても「美しい曲だな」と素直に思えるし、とても気に入っています。当時はちょっとストレート過ぎる気がしていましたけど、これくらいでよかったと今は思います。
――タイトルも中身も非常にストレートです。そんなラブソングを作りたい気持ちに、当時の浜崎さんはなっていたということでしょうか。
“愛してる”と言っちゃうようなストレートさを、その頃の自分がどうして持ち合わせていたのか、よくわからないですね。でも自分でも意識していない心境の変化みたいなものがあったんだと思います。世の中に不穏な空気が漂っていたからこそ、大切な人の幸せを祈る、大切な人に愛を伝える、ということを大事にしたかったのかもしれない。よりよい世界を送り届けたい、とかね。
高いキーなのによく声が出ていますよね。今はこういう声は出せませんから、音源で残っているのは嬉しいです。

(まだインディーズ時代のFLYING KIDS。イカ天年間 平成元年編から。)
インタビュー : 木村由理江