103. タイアップ曲の制作が先行したアルバム『HOME TOWN』

――学園祭ツアー中の11月1日、アルバム『HOME TOWN』がリリースされます。

 『とまどいの時を越えて』から始まったアルバムの作業は、それ以降も依頼されたタイアップ曲を作ることで進んで行きましたね。FLYING KIDSのいろんな引き出しを見せた前作『Communication』の次のステップを見定められないまま、曲だけが出来ていったというか。このまま既発のシングルをまとめたアルバムとして出すことになるのかな、と思い始めた頃に浮かんできたのが、『HOME TOWN』という曲の構想でした。それでひとつの街=故郷を舞台に起こる出来事がそれぞれの曲で表現されているというコンセプトでまとめよう、と考えたんです。すぐに楽曲『HOME TOWN』を仕上げ、出来上がっていた曲を全部並べ・・。その隙間を埋めるように作ったのが『森の中へ』でした。

――アルバムは『HOME TOWN』で幕を開けます。

 『ダークサイドなブギ』でも話しましたけど、FLYING KIDSが元々持っていたファンクでロックな側面を自分たちの手元にしっかり置いておきたいという気持ちが、この曲には表れていますね。ロック的なアプローチがあまり得意ではなかった丸山さんと加藤くんには、僕が弾いたギターのリフを参考にそれぞれの演奏を考えてもらったりしました。“FLYING KIDSの新しいサウンド”を作り出したいと試行錯誤したつもりですけど、ポップな印象を拭いきれなかったし、本来のバンドのグルーヴを収録できなかったのが残念ですね。歌詞ももうちょっと工夫できたんじゃないかなと、今、聴いて思いました。

――『暗闇でキッス』を挟んだ3曲目は『ガードレールにもたれて』です。

 当時、僕が抱えていた気持ちが、歌詞に詰まってますね。蘇るなー(苦笑)。喰らってしまっていた不穏な時代の空気から脱出したいとか、“世間一般の感覚”を失わないようにストリートの空気を吸いながら歌を作りたいとか、そういうのをストレートに歌っちゃっている。ピュアで美しい世界への回帰みたいなものが、この辺からまた始まっていくんですよね。自ら進んで“ポップ”というものを追求し、『暗闇でキッス』に辿り着いたわけですけど、少しずつ“ポップだ”と言われることに戸惑いと居心地の悪さを感じるようになっていたんですね。それでバランスを取ろうと8ビート感の強い、ギターサウンドの曲になってしまった。これはバンドというより僕個人のテイストです。もっとメンバーのことを意識した曲作りができるとよかったんですけど、とにかく曲を作らなきゃいけない状況で、出来た曲がよければそれはどんなものでも仕上げる、ということで(アルバム制作を)先に進めていかざるを得なかった。メンバーの中には持ち味や得意な部分を発揮できない人もいたと思いますけど、みんな僕に合わせてくれていたんですね。FLYING KIDSのソングライターとしての自分の至らなさを感じます。

(1995年に発行された新潟の音楽雑誌cast。FLYING KIDSが表紙でした。)


インタビュー : 木村由理江