102.『暗闇でキッス』の歌詞は二重構造

――1995年8月23日に13枚目のシングル『暗闇でキッス』が発売されます。

 この時期に始まった「COUNT DOWN TV」(TBS系)の最初のオープニングテーマでしたね。ただその話をいただいて作った曲かどうか定かではないです。『とまどいの時を越えて』の次の作品ということで、バンド全体が「歌ものをさらに追求しよう」という方向に進もうとしてましたから、僕がスタジオでギターを弾きながらみんなの前で「こんな感じ。で、ここはチュチュチュと歌って」と作り始め、それを元にみんなで少しずつ仕上げていったはずです。イントロはメンバーのアイディアですね。今聴いても、本当に隙がない仕上がりだと思います

この曲は一度、録り直しています。静岡県の川奈にあるサウンドスカイというスタジオで合宿レコーディングをして完成させた時には、「これ以上ない!」と自分たちで盛り上がったのに、東京に戻って聴いたら「めちゃくちゃテンポが遅いなー」と。それで『風の吹き抜ける場所へ』方式で、リズムを打ち込みで作り直し、他にもいくつかダビングし直し、パーカッションも入れようということになって三沢またろうさんに来てもらい・・。それで出来上がったのが今のヴァージョンです。

――歌詞で歌われているのは男の子の未練のようですが・・。

 表向きは甘酸っぱいラブソングですけど、その奥には阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件によって社会に蔓延していた“混沌”とか“闇”みたいなものとどう向き合うか、というメッセージが込められています。僕自身がそこにどっぷりハマってしまって、抜け出そうともがいてましたから、それがそのまま作品になったと言えるかもしれない。そんな状況だから逆に青春の1ページみたいなものをより愛おしく感じていたというのもあるんでしょうね。

歌詞を二重構造にした理由のひとつには、『とまどいの時を越えて』の“反省”もありました。妙に真面目になったりせず、エンタメに振り切ってみんなを別の世界に連れていってあげることが正解だったのかもしれないと考えたので、“とにかくポップに”ということを意識していました。結果、“ファンク”から随分遠く離れた楽曲になりました。ちょっとやり過ぎな気もしますけど、その時点でできることをすべてやらないと“次”が見えてこないと感じてもいた。本当はもっと知恵も絞れたらよかったんでしょうね。でも次から次へと曲を作らなくてはいけなくて、そんな時間はなかったんです。

――カップリングの『ダークサイドなブギ』は好対照な楽曲です。

 『暗闇でキッス』のポップさが自分で恥ずかしくなって、ちょっと調整しようとこの曲を作ったんじゃないかと、今、聴いて思い出しました。『風の吹き抜ける場所へ』以降のシングルで薄まってしまったFLYING KIDSの本来の音楽性を、なんとか取り戻そうとしていんだと思います。

 歌はスタジオに敷いたマットの上にマイクを立ててもらい、寝転がって録った記憶があります。気だるい感じを出したかったのかな。スタジオワークもルーティン化していたから、何かおもしろいことをして新しいものを生み出せないかと思ったんでしょう。でも寝転がらなくてもよかったかも(苦笑)。

(1995年4月22日に開催された「緑と水の森林基金チャリティー高野寛トーク&アコースティックライブ Thinking of the Green Vol.5」の時のバックステージ。宮沢和史さん、浜崎、高野寛さん。場所は日比谷公会堂。)


インタビュー : 木村由理江