97.“ソウル”が込められた曲は個人的な体験を乗り越えていく
――アルバム『Communication』の9曲目は『思い出のハイスクール』です。
アルバムとしてコンセプトは立てず、1曲1曲集中して作っていたわけですけど、それぞれの楽曲が持つ世界観が見えてきた頃に「愛らしいだけの曲があってもいいんじゃないか」と思ったんですよ。モチーフにしたのはスティーリー・ダンの曲です。
ほのぼのとした歌詞ですね。青春を肯定的に描いているのはちょっと珍しいかもしれない。僕の高校は男子校でしたから、“もし共学だったら”と妄想を膨らませて一編の物語を創作するように書こう、と思ったらすぐにできた。ただ“物語”を意識しすぎて、心の奥にある本当のこと=実感が伴ってない気がします。早く曲を仕上げなきゃいけないと、焦っていたのかもしれないですね。
――最後を締める『僕が言える事のすべて』は名曲です。
レコーディングの後半、ふと思いついた小さな曲がアルバムの最後になることが多いんですが、この曲もそうでしたね。スタジオでふとメロディと歌詞が浮かんできて、その時点ですでに「いい曲だ」と確信しましたけど、仕上がったらさらによくなった。僕がFLYING KIDSの中でいくつか曲を選ぶとしたら、この曲は必ず入れるでしょうね。
――なぜこの曲が突然できたのか、思い当たることは?
ずっと仲良くしていた人がトラブルを抱えて苦しんでいた時に自分が何の力にもなれず、それをきっかけに関係が変わってしまったという経験が、どこかで土台になっている気がします。
〔涙枯れるまで泣きなよハニー〕の後半の半音で降りてくるコード進行は、僕が大学時代に好きだったジャズのスタンダード曲『Freight Trane』がモチーフ。といっても意識してそうしたわけではなく、作っていたらこうなってました。ものすごく影響を受けたものが、時間が経ってからふっと出てきたことが自分でもおもしろかったです。
――小さくてシンプルな歌なのに、こんなに胸に響くのは素晴らしいです。
録音状態もすごくいいんですよ。今でもこういうアコースティックなサウンドで録りたいと思うくらい。丸山さんのアコースティックギターは演奏も素晴らしいし音もすごくよく録れています。どうしても入れたくて、弾いたことのない丸山さんにお願いしていろいろ試してもらいながら録ったべダルスチールの演奏も音も素晴らしい。それにちょっとディストーションをかけたりリバーブで広げたりしたエンジニアの比留間さんのアイディアも本当に最高です。「大好きだな、この曲」と思いながら録ってました。ファルセットがビンビンに使えていた頃だったから、僕もすごくよく歌えていますね。そう言えばこのリズム、ドラムを使うのは違う気がして、僕がボイスパーカッションとドラムマシンの808(ヤオヤ)の音を足して作りました。
阪神淡路大震災の直後に大阪のFM802がこの曲を何度も流してくれて、たくさんの人の癒しになったみたいです。励ましたり力になれることはあまりないという諦めの心境を歌っているわけですから、そうなったのは偶然でしかないと思いますけど、大事な“ソウル”がこの楽曲の根っこにちゃんとあったからだろうとは思います。『思い出のハイスクール』でできなかったのはそこですね。

(当時ファッション雑誌でモデルを務めたときのもの。)
インタビュー : 木村由理江