96.“輩魂(やからだましい)”が炸裂した『ザケンジャネーヨ』

――アルバム『Communication』の7曲目は『星屑の二人』。とてもロマンチックです。

 僕が書いた曲が元になっています。僕のデモテープの段階で「いい曲だね」と話してはいたんですけど、少しも革命的じゃないしファンクの黒っぽさも全然ない。でもスルスルできた曲でしたから、「今回はこの世界をやり切ろう」とみんなでアイディアを出し合って仕上げました。途中の〔This is my night,This is your story〕のあたりは加藤くんのアイディアで、すごくリリカルなアレンジのパートは飯野さんですね。さらに金子飛鳥さんのストリングスと中島オバヲさんのパーカッションに入っていただいたことで、世界観がしっかり表現できた。

 この曲で歌おうとしたのは“刹那を願う永遠”かな。「この瞬間こそ永遠だよ」みたいな。ちょっと不思議な感覚ですね。〔線路の上歩こう〕というあたりは、当時住んでいた近くを走っていた都電や映画『スタンド・バイ・ミー』で見た風景がモチーフになってるんでしょうね。1曲目の『ジェットコースター』にも通じますが、夜中にプールに入るのも夜中に線路を歩くのも二人っきりになれる、すごくロマンティックなシチュエーションですよね。今はもう警備が厳しくて難しいんでしょうけど。時代は変わりましたね。

――すごくキュンとするし、聴いていると喉が鳴ります。電車の中で歌い出しそうになる自分を抑えるのが大変でした(笑)。

 (笑)。さっき聴いて、「もうちょっとうまく歌っておけばなー」と思う部分がいくつかありましたね。それがその時の自分の精一杯なんでしょうけど、今の僕ならもっと違う歌を歌える気がします。

――8曲目の『ザケンジャネーヨ』では雰囲気が一転。ロック魂が炸裂していますね。

 1993年のJリーグのチャンピオンシップ・鹿島アントラーズ対ヴェルディ川崎の試合で、三浦知良選手がPKを蹴る直前にジーコがボールに唾を吐きかけたんですよ。PKの失敗を願うブラジル流のおまじないだったみたいですけど、人格者で知られていたジーコのその姿にびっくりしたし、同時に勝負に対するジーコの執念を感じて、忘れていた自分の“輩魂(やからだましい)”が一気に蘇ってきたというか。「ドラマに出たりお客さんにキャーキャー言われて調子に乗っちゃってるけど、本来のオレはチンピラみたいなやつだった」と原点に還ることができた。それですぐに書いたのがこの曲です。メロディも歌詞も一気でしたね。久々に聴いたらFLYING KIDS流の不思議なロックンロールになっていてとてもおもしろかったです。シャウトを含め29歳の自分の体の鳴らしっぷりがすごくてびっくりしました(笑)。今はもう歌えないですね。こんなにパワーがないから。

『セクシーフレンド・シクスティーナイン』を含め、この頃からロックのギターサウンドが楽曲に散りばめられるようになっていますね。丸山さんと加藤くんにフレージングやサウンドにいろいろ工夫してもらっていたし、楽器としてのギターはもちろんアンプやエフェクターといった機材も厳選してました。ドラムの音に注文をつけたこともあったし・・。エンジニアの比留間整さんともガップリ組んで、細部にまでこだわったサウンド作りをしていました。だから一気に作った曲ですけど、楽曲として仕上げるまでにはかなり時間がかかっている。僕もみんなもスタジオから帰る時には毎日ヘトヘトでした。

(当時雑誌に掲載されたもの。)


インタビュー : 木村由理江