94.ストッパーを外してチャレンジをしようとしていた

――8枚目のアルバム『Communication』は『ジェットコースター』で始まります。

 元になっているのは僕が書いた曲です。夜中にジェットコースターに乗るなんてあり得ない話ですけど、夜の遊園地を舞台に青春を描いてみようというアイディアだったはず。来日したマイケル・ジャクソンが夜のディズニーランドを貸し切ったことや、スプラッシュ・マウンテンの最後に一瞬だけ見えた夜景もヒントになっている気がします。“ジェットコースター”はスピードを増しながら駆け抜けて、最後には燃え尽きるということのメタファーでもありますね。そういうスリルも含めて歌いたかったんでしょう。自分の人生もジェットコースターのようだと感じていたのかもしれない。

リズムはドクタージョンの『IKO IKO』と同じセカンドラインと呼ばれるもの。FLYING KIDSでやるのは初めてでした。アルバムの他の曲にも言えることですけど、固まりつつある自分たちのイメージをここで一度壊そう、そのためにストッパーを外していろんなチャレンジをしよう、その先に何が待っているかは出来上がった作品に教えてもらおうという意識で楽曲は作ってました。

光が射してくるイメージのキーンという高い音で始まって、ジェットコースターの音が流れて曲が始まるという演出は、楽曲の世界を今まで以上に突き詰めて表現したい、歌の世界に没入して聴いてほしいという想いの表れです。ちなみにジェットコースターの音は、豊島園で当時持ち歩いていた小さなDATで録ったはず。情熱的だし切ないし爽やかだし・・。当時はライヴでよくこの曲をやってましたね。

――『風の吹き抜ける場所へ』を挟んで3曲目は『セクシーフレンド・シックスティーナイン』です。

「コピーを使って車のCM曲を作ってもらえませんか」というオファーをいただいて作りました。“かなりキテール カンジテール”というコピーだからセクシーな曲だろう、と。歌詞は当時、取材や地方キャンペーンでよく顔を合わせていたレコード会社のスタッフたちのテレクラがらみの武勇伝をモチーフにしています。エド・サリヴァンショーのオープニングみたいな書き出しも“かなりキテール カンジテール”の影響。クライアントサイドから出てくるリクエストやアイディアがうまくハマったいい例です。この“軽さ”を基本に持てたことが、この曲がうまく行ったポイントですね。

曲調的は“ファンクロックの拡大解釈”といった感じでしょうか。ロックは僕のルーツのひとつでレッド・ツェッペリンも好きでしたから、作っていて楽しかったです。僕が提案したロックギターっぽいリフを丸山さんに弾いてもらったりもしています。初期の頃によくやっていたラップ的なアプローチも久々にやれて、解き放たれた感じがありましたね。

CMでこの曲を聴いた知り合いやずっと応援してくれた人たちは、「本当にFLYING KIDSなの?」とびっくりしてました。それくらいインパクトがあった。FTOという車もよく売れたしこの曲も話題になってラジオでよくオンエアされました。シングルカットの話も出たんですが、「アルバムで聴いてもらおう」ということに。当時の事務所の社長はその決定を『幸せであるように』のシングルを1万枚限定にしたのと同じくらい後悔してました。この曲はアレンジを含め本当によくできてますね。これをメンバーだけで作ったわけですから、すごいですよ。当時の絶好調ぶりがよく出ていると思います。

(ドラマ「もしも願いが叶うなら」の沖縄ロケの時のも。出演者とスタッフ方々。)


インタビュー : 木村由理江