86.「こんなに心情を吐露する歌詞は『Flying Kids』が最後じゃないかな」

――アルバム『FLYING KIDS』8曲目は『汚れた英雄』。同じタイトルの映画がありましたよね。

草刈正雄さん主演の映画(1982年)ですね。映画は観ていませんが、タイトルはずーっと気になっていました。当時の僕は、新しい世界に足を踏み入れていないと新しい音楽を作り続けることはできないと考えていましたから、常に自分を“エッジ”へ追い込もうとしていて、そのために多少自分自身が汚れることも厭わないようなところがあった。そういう自分をどこか醒めた目で俯瞰してもいましたけどね。それでゴスペルをモチーフにした飯野さんの曲に、本来であれば『進め!進め!進め!』(『ゴスペルアワー』収録)のような仲間とわいわい楽しむ歌詞をつけるのに、あえて汚れていく自分をテーマにした歌詞をつけたわけです。当時は“チーマー”と呼ばれる不良がいろんなトラブルを起こしていて、僕自身、バンソンの革ジャンを着て吉祥寺を歩いていたらチーマーに絡まれ、ちょっと言い返したらナイフを出されそうになったことがある。そのこともちらっと歌詞にしています。

――アルバムの最後を締めくくるのは『Flying Kids~大人になれない子供達』です。

ちょっと記憶がないのですが、誰かが「永遠に大人になれない子ども=“Flying Kidsをモチーフに楽曲を作ったら?」と提案したんじゃないかな。憶えているのは、中村さんの家で一緒に曲を作っていたこと。マイナーキーで始まってサビでメジャーに行く展開のヒントを授けてくれたのも、中村さんでした。結果、そのメロディに引き出されたのは、自分の中の無垢なものを外の世界とどうすり合わせて生きていくのかという葛藤と、音楽を通して見た夢や子どもの頃に描いた理想の生き方を追求していきたいという願いみたいなものでした。

――“自分の中にある無垢なものと外の世界のすり合わせ”ですか。

FLYING KIDSのフロントマンとして自分のエンターテインメント性を高めるために何かを演じたり何かを気取ったりする部分と、そんなことよりもっとピュアに音楽をやりたい、生きていきたいという想いですね。その両方を抱えて突き進むんだというのが、その後のFLYING KIDSのあり方に繋がっている気がします。

こんなに吐露する自分は、この歌詞が最後じゃないかな。忘れてるだけかもしれないけど(苦笑)。タイトルは『Flying Kids』ですけど、内容的には非常に個人的ですね。そういった僕の個人的な心情を100%受け止めて、中村さんはアレンジしてくれたのだと思います。

――歌詞に込められた想いは、歌声からも切々と伝わってきます。

リズムが時々曖昧なことと、低音、とくにAメロの最初の低音がコントロールできてないことが気になりますね。今はだいぶ上手に扱えるようになりましたけど、最初に低音域を使うことを勧めてくれたのは中村さんです。この曲と『Wish…Merry X’mas』で、低音域からファルセットまで幅広く使うことを意識させてくれた。それはすごく大きなことでしたね。

 シングル『恋の瞬間』(1993年10月27日)のカップリングはこの曲の“Midnight Sky Version”。別ヴァージョンを作るくらいにこの曲に賭ける僕の想いは強かったということですね。その別ヴァージョンも今日聴いて、その時の執念みたいなものが記録されているのを感じてちょっとびっくりしました。

( DANCE NUMBER ONEの時の撮影風景。浜谷淳子さんと。)


インタビュー : 木村由理江