82.FLYING KIDS復活の狼煙になった『大きくなったら』
――移籍第一弾シングルで、アルバム『FLYING KIDS』の1曲目でもあった『大きくなったら』は、明治乳業「ニューステップ」(離乳食期に不足しがちな栄養を補給するミルク)のタイアップ曲。お茶の間にもたくさん流れました。
タイアップに合わせて作った曲だったはず。僕はいろんなことでヘトヘトになっていたので提出しませんでしたけど、バンド内コンペで「飯野さんの曲がすごくいいね」と。もう一度メンバーだけで作品を作ろうと決めた直後でしたから、レコーディングは伊豆のスタジオで合宿しながらやりました。グルーヴ的にはニュージャックスウィングですね。当時の日本のポップスではまだ珍しかったコード進行を使っています。歌詞に関してクライアントからどんなリクエストがあったか、よく憶えてませんけど、自分なりに“大人になっていくことの意味”を考えつつ、その時に自分が抱えていた想いも反映させて、前向きな言葉を選んで書いた気がしますね。
――最後の歌詞は〔明日を信じて〕ですものね。経緯を知っている今、丸山さんと加藤さんのツインギターがなおさら伸びやかに楽しげに聴こえます。
丸山さんと加藤くんが作ったツインギターのパート、いいですよね。最後のコーラスもすごくいい。メンバーが再び結束し、それまでのレコーディングで自分たちが積み上げてきた経験と中村哲さんから吸収したことをちゃんと消化できたからこそ辿り着いたアレンジだと思います。だからシングルにもなったし、結果的に“FLYING KIDSの復活の狼煙”みたいなものにもなったわけだし。トンネルをひとつ抜けた晴れやかさがありますよね。アルバム『FLYING KIDS』を象徴する曲ですし、この曲ができたことはFLYING KIDSにとってはすごく大きかった。この曲が次のアルバム『Communication』につながっていくんですよ。
――シングル『大きくなったら』は両A面で、もう1曲は『虹を輝かせて』です。アルバムにも2曲目に収録されています。
アメリカンロック的なところがいかにも伏島節という気がします。編曲のクレジットに中村哲さんの名前があるから、作っていたのはレコーディングの早い段階ですね。シングルになりそうな、よりポップな楽曲作りを目指していましたから、歌詞の内容も意識的に「愛とはなんぞや」的な哲学的なものではなく「もっと外に出て人生を楽しもう」という青春謳歌的なものにしたのだと思います。ただ「ファンクがちょっと足りなさ過ぎた」とあとで反省しました。
――バンド内の状況をすでに知ってしまっているからでしょうけど、〔どんなに傷ついても 出会いはいつの日か 必ず宝物に変わる〕というフレーズは、浜崎さんからメンバーへの「一緒に頑張ろうよ」というメッセージに聞こえてきます。
確かに自分も含めて「頑張ろう」ですよね。バンドへの想いをここで吐き出している感じがします。“どしゃぶり”のように混乱しているFLYING KIDSの中で“虹を輝かせよう”と思ってジタバタしていたのは間違いないですから。今、初めて気がついてびっくりしました(笑)。でもそんなものかも。歌って正直ですからね。
( 大きくなったらのポスター)
インタビュー : 木村由理江