77.アルバムジャケットの撮影中に歌詞を書いていた『あなただけ』

――アルバムの1曲目は『レモネード』。飯野さんの曲ですね。

 メンバー同士で「最近こんなのがいいよ」と曲を紹介しあうことはよくあって。当時の僕はイアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズみたいなブラックミュージックに近いパンク・ニューウエーヴっぽい楽曲を、他のメンバーは本格的なブラックミュージックやブルーアイドソウルっぽい楽曲を聴いていたんですが、飯野さんは80年代のイギリスのヒットチャートをにぎわしたスイング・アウト・シスターとかティアーズ・フォー・フィアーズなんかをキャッチしてたですよね。で、この曲もその辺がモチーフになっている気がします。楽曲の世界観の大部分は、歌詞を書いている僕がコントロールしてはいるんですけど、メロディとかコード感に愛らしさがありますよね。どこか知的で品があってポップで優しい気持ちいい雰囲気の曲というか。飯野さんらしいしすごくいいなあと思う。複雑なトライがたくさん施された中村さんチームのアレンジも、さすがです。

――2曲目の『あなただけ』はサビのじゅんちゃん(浜谷淳子さん)と浜崎さんの掛け合いから始まります。

 これはディスコミュージックを意識して作ったハウスですね。女性言葉の歌詞はこれが2作目でした。 

 加藤の曲を聴いてすぐに〔あなただけを〕で始まるサビの2行ができて、あとはサビとサビの間を物語で埋めていくような感覚で歌詞は書いたんだと思います。正直、この歌詞がどんな内容か、自分でもよくわからない(苦笑)。カメラマンの小暮徹さんのご自宅でCDジャケットを撮影していた最中に書いていた記憶はあるんですけどね・・。時間的にも精神的にも追い立てられていて、お題に沿うように作るというやり方しかできなかったとも言えるし“作詞家”的なプロフェッショナルな仕事をしていたとも言えるし・・。今聴くと、物語だけになっちゃってて、感情が死んでたなーという気もします。でもこの時は仕方がなかったんですよね。

――3曲目の『強引なんだね』もじゅんちゃんがフィーチャーリングされた曲です。

 中村哲さんに「じゅんちゃんをフィーチャーリングしたファンキーな掛け合いの曲が欲しいね」と言われて、フセマンが作ってきた曲をデュエット曲に仕立てたはずです。じゅんちゃんを主人公に男性とどんなやり取りをさせようかと考えているうちに、“going”がはまりそうだ、響きの似た“強引”も活かせるかも、と視界が広がっていった気がする。今の世の中なら“セクハラ”でアウト間違いなしの勘違い男とどっちつかずの女性の歌になりましたけど、もっと“going“や”強引“が活きる歌詞にすることもできたんじゃないかなー。前にも同じことを話してますけど、この頃の僕はまだじゅんちゃんの活かし方がわかってなかった。ちょっと悔いが残りますね。

僕のキーが低いのは、フセマンの曲を無理やりデュエット用に仕立てたから。掛け合いにするにはそれしか方法がなかった。でも無理があったなー。じゅんちゃんの歌は活きているけど、僕の歌は全然活きてない。まあそれもひとつの新しさになっていると思いますけど。

中村さんチームのアレンジには、どこかジェームス・ブラウンっぽさがあっておもしろいですよね。「これまでとは全然違う!」というインパクトを味わってほしいとも思ってました。

(1992年、ロッキングオン・ジャパン用に撮影されたもの。カメラマンは小暮徹さん。)


インタビュー : 木村由理江