72.“意味がなくてかっこいい”をどこかで目指していた『してきちゃいなよ』

――『DANCE NUMBER ONE』の3曲目はじゅんちゃん(浜谷淳子さん)のソロパートが光る『してきちゃいなよ』です。

『GOSPEL HOUR』の『進め! 進め! 進め!』で全員がリードヴォーカルを取った延長線で、僕以外の誰かが歌うパートを作ろうという話が事前にあった気がします。この曲のじゅんちゃんの歌はどこかアイドルっぽくて、そこだけピュアな世界になっていておもしろいですよね。歌詞は僕が書きましたけど、当時の僕は自分自身の扱いにも困っていましたから、とてもじゅんちゃんに寄り添って歌詞を考えることはできなくて、ちょっと感情が見えない歌詞になっちゃっている。そのことが気になっていたけど、感情を見せないフレーズだからかっこよくなったのかなと、今、聴いて思いました。

〔来年あたり宇宙を旅してガッツなソウルを手に入れる〕という歌詞とか、意味がわからないけどかっこいいですよね。どこまで理解してもらえるかわからないけど、意味があるとかっこ悪くなっちゃうことってあるんですよ。だから“意味がなくてかっこいい”ということを、どこかですごく目指していたんだと思います。

――4曲目の『ワザワザイチャイチャ』はじゅんちゃんとのデュエットソング。イントロの教会の鐘の音、ホイッスルのような口笛、抒情的なハーモニカがロマンチックです。

 詳しい経緯は憶えてないですけど、デュエットソングを作ろういう話は最初からあったんだと思うんですよ。それが『してきちゃいなよ』だったのか『ワザワザイチャイチャ』だったのか・・。どっちもいいから両方入れようということだったのかな。アレンジについても、ほとんど憶えてないですね。ちょっと歪んだドラムが途中でパン!と入るのは僕のアイディアだった気がするけど・・。多分曲を書いた丸山さんを中心にアレンジが進められて、映画『アメリカン・グラフィティ』(1973年)的な、モータウンサウンドのダンスチューンに仕上げようとしたんだと思います。フセマンのベースもすごくいいし、すごくよくできていると思う。ただキーは高くて、アレンジもすごく難しい。当時はライブでやってましたけど、今はちょっと再現できないですね。一度練習でトライして、諦めました。

――この曲の記憶が曖昧なのには何か理由が?

 曲作りと歌詞を書くことと歌うことで四苦八苦してた気がします。疲れ果てていて、アイディアも出てこなかったんでしょうね。

――当時の取材で「宿題みたいに家に持ち帰って歌詞を書いている」、「歌詞を書くのがとにかく大変」と話しています。頭を抱えながら言葉を捻り出していたんですか。

 確かにそんな感じでした。でもその割にどの歌詞にも淀みがないし、ちゃんと仕上がってますよね。大変なのはイメージみたいなものを見つけるまでで、それが見つかればスイッチが入って、途中で悩むことなく書けていたんだと思います。この歌詞も、少し距離を感じ始めたカップルが、みんなの前でワザワザイチャイチャしてみることで二人の距離がどう変化するのか試してみよう、以前のような距離感を取り戻せたらいいなという歌にしようと決まったら、そこから一気に書けたはずです。


(1993年2月、渋谷のオンエアーで開催されたFLYING KIDSのライブの楽屋にて。高野寛さんと。)


インタビュー : 木村由理江