71.本気と洒落、その境界を行こうとしていた『結婚シタイんじゃない?』
――『DANCE NUMBER ONE』の2曲目はFLYING KIDSプロデュースの『結婚シタイんじゃない?』です。
『YOUNG ANIMAL No.1』でモチーフにした元気なOLさんたちに「もしかして僕と結婚したいんじゃないの?」と言ってみる、みたいなことから始まったのかな。「あいつ、調子に乗ってるのか」的なことをレコード評で書かれたりしましたけど、僕としては本気でもあり洒落でもある、そのギリギリの境界を行こうとしてたんですね。『君だけに愛を』をカバーすること引き受ける覚悟を決めた“セクシーアイドル”のイメージを、自ら茶化してもいるんでしょう。最近ライブで「こんばんは、みんなが大好きな浜崎貴司です」と挨拶することがありますけど、原点はここにあったのかもしれない。ちょっとプリンスも意識してたのかな。ライブでもよくやっていた曲で、その度に僕はシャカリキになって踊ってました。いろんな曲を作る中でこういう曲が出てきたのはどうしてだったのかな、とも思うけど。
生活向上委員会の梅津和時さん、片山広明さん、吉田哲治さんによるホーン・アレンジがすごくおもしろいですね。曲自体はロカビリーなのに、ホーンのおかげで下世話でエロい、独特のロックンロール感のあるサウンドになっている。プリンスがよくやっていた、少しアウトしていくフレーズをわざと入れていたりもしているし。『YOUNG ANIMAL No.1』に続くこの曲もジャンルには括れないし、すごいオリジナリティですよね。ほぼ30年前に作った曲ですけど、当時のFLYING KIDSのクリエイティビティの高さを、久々に聴いて改めて感じました。自分が携わったことなんですけどね。
――3曲目はセクシーなため息で始まる『してきちゃいなよ』。この曲もプロデュースはFLYING KIDSで飯野さんの作曲です。
これは非常にライトなファンクチューンですね。テンポの速い8ビートで疾走感があって、ジェームス・ブラウンとかプリンスの感じもちょうどよく入ってる。当時はちょっと薄っぺらいかもと思えたアレンジも、今聴くとちょうどいい気がします。
アレンジは打ち込みです。生の楽器は生活向上委員会3人のホーンとギターとキーボードくらいかもしれない。ただメンバーでは機材を扱いきれないので、福富幸宏さんにプログラミングをお願いしました。曲前のSEみたいなやつも、福富さんが持っていたサンプルから当て込んで作ったはず。福富さんはいろんなことをやってくれましたね。
――“してきちゃいなよ”というフレーズはどこから出てきたのでしょう?
ある日、どこかで拾ったんでしょうね。どんなシチュエーションで使う言葉か、今もすぐには思い浮かばないけど、背中を押すような突き放すような、微妙な距離感がいいですよね。しかも目的語を曖昧にして、性的なことやドラッギーなことを匂わせる言葉として使ってるところがおもしろいし、よくできていると思います。ある種の“遊び”ですね。まあ「やっちゃおうぜ」、「殻を壊そうぜ」と言いたかったんだと思いますよ。
――〔生まれかわれるぜ〕とも歌ってますしね。
このアルバムを仕上げるにあたって僕の中に、生まれ変わりたいという目標というか願いみたいなものがあったんだと思います。

(1993年2月、渋谷のオンエアーで開催されたFLYING KIDSのライブのオープニングで、Ed TSUWAKI氏が描いた絵。)
インタビュー : 木村由理江