70.もっと成長したい、もっと変化したい
――当時の雑誌記事に「第二弾のレコーディングは1992年4月15日から」とありました。『GOSPEL HOUR』発売のほぼ1ヶ月前です。
“踊る”がテーマですから、ダンスミュージックを作ろう、と考えていました。さらに新たなことを取り入れたくて、何曲かプロデュースを外部の方にお願いしてみようか、と。成長し、変化してくために、もう少しギアを入れようとしていたんですね。
――『DANCE NUMBER ONE』の1曲目『YOUNG ANNIMAL No.1』は川島バナナさん(以下バナナさん)のプロデュースです。
バナナさんを知ったのは陽水さんが久々に日清パワーステーションでやったライブでした。その時のピアノがすごくかっこよくて、その話をディレクターの大友さんにしたら「ちょっと訊いてみるわ」って。
バナナさんはスタジオにやってきて、そこでゼロから打ち込みでアレンジを始めたんですけど、作業が終わったのは翌日の午後。その間、ぶっ通しでした。ジャンル的には一つに括れない謎の世界観だし、バナナさんもぶっ飛んだ人だから、一緒に作業したエンジニアさんはかなり大変だったと思います。僕らもスタジオにいましたけど、カオスな現場でしたね。実はこの曲、打ち込みなので中園さんのドラムは入ってないんですよ。『新しき魂の光と道』のマッチョズの曲も打ち込みでしたけど、この曲は僕が歌う、アルバムの1曲目。大きなチャレンジでした。
『GOSPEL HOUR』で僕らが手に入れたコーラスワークを、この曲では活かしています。三連の跳ねのグルーヴをここまでシャープにコーラスで表現したのは初めてだし、今までやったことのないダンスグルーヴで“青春”を歌った曲だと思います。
――〔ヤング・アニマル・ナンバーワン〕というフレーズはどこから?
加藤が作ってきた曲をもとに二人で仕上げていた時に、口から出てきただけです(笑)。そのうち別の言葉を思いつくだろうと思っていたら、替えが効かなくなってしまった。
歌詞には、“ジュリアナ東京”のお立ち台で羽扇子を振りながら踊っていたボディコンのOLさんたちの、昼間はちゃんと会社で仕事をし、休憩時間にトイレの個室でメンソール系のタバコで一服して、みたいな風俗も盛り込みました。当時のOLさんたちが発散していた“勢い”みたいなものも出したかったし、いつになっても色褪せないエバーグリーン的な歌ではなく、週刊誌的な“今だから聴ける歌”にしてしまおうと考えました。『GOSPEL HOUR』では記憶の中の青春の風景みたいなものをたっぷり歌いましたから、このアルバムではその先にあるもの、今、見えている景色を歌にしていこうという意識が強かったと思います。
――バブル期の人々の物欲めいたものを歌いながら、どこかで無常感も漂っていませんか。
物欲の人なんだけど、そこを突き進んでいたら精神世界みたいなものが出てきてしまったというのが、当時の僕のリアルなんでしょうね。物欲と精神世界、両方を抱えて生きていたということなんだと思います。
(アルバム・GOSPEL HOURの時のグループショット。カメラマンは小木曽威夫さん。)
インタビュー : 木村由理江