67.「もっとうまく歌いたい」という意識の芽生え

――『GOSPEL HOUR』の2曲目は、アカペラのコーラスで始まる『カナリア』です。

 今、久々に聴いてちょっとびっくりしました。よく作ったなー。音程を修正する技術がまだなかった頃ですから、メンバーの努力と集中力が詰まったコーラスです。本物のゴスペルの凄さを知っているから、恥ずかしくないものにしようと一生懸命でした。

 曲を書いたのはフセマンですね。伏島曲の特徴は、すごく素直でわかりやすいこと。ポップとも言えるし、焦点が少しぼんやりしてるとも言える。それをゴスペル的なアレンジでソウルミュージックに仕上げました。僕が通っていた東京学芸大学にあった噴水広場と童謡の『歌を忘れたカナリア』が、歌詞のモチーフになっています。

――最後半に〔もっとうまく歌わなきゃ〕という歌詞が出てきます。“歌うこと=楽しい”と思えなくなっていた時期だったりもするのでしょうか。

 当時の日本の音楽マーケットも“歌”を求めていた気がするんですよ。そんな中で“歌”をテーマにアルバムを作ることに、どこかで大きなプレッシャーを感じていたのかもしれない。歌い方もこのアルバムからだいぶ変わってきてますよね。「もっとうまく歌いたい」と思っていたんだろうなあ。あの頃は歌うたびにダメ出しばかりしてたんでしょうけど、久々に聴きいたら、とても上手に歌えていてびっくりしました。アルバム4枚目でこんなにうまくなってるなんて、ちょっといいじゃないですか。

――3曲目の『進め!進め!進め!』は、浜崎さんの語りから始まります。

 当時、こういう語りがすごく得意で、ライブでも即興でよくやってました。ただ「語っちゃえば?」と勧めたのはディレクターの田村さんだった気がする。前もって考えていった文章をスタジオで読んだんじゃなかったかな。アルバムタイトルで“ゴスペル”と謳っておきながら〔僕は神様を信じちゃいない〕と言っちゃっているのは、“本物のゴスペルじゃないよ、黒人音楽をサンプリングしてるだけなんだよ”という態度と“でも自分たちは日本人としてのソウルをきちんと歌うよ”という姿勢の表明でもあったんでしょうね。

――曲は飯野さんです。

飯野さんはゴスペルをモチーフに曲を作るのが得意だったから、ゴスペルのエッセンスを凝縮して作ってきてくれたんだと思います。コーラスもゴスペルのアレンジを踏襲しているので、まさに“ゴスペル”という曲になりました。この曲では全員がリードヴォーカルをとることにしていたので、ライブでの盛り上がりも想定しつつ、それぞれのキャラクターをうまく紹介する歌詞にしようとしていたし、そこに僕自身の「頑張るぞ!」という想いを重ねています。バンド内の状況は徐々に変わりつつあったけど、この頃はまだ和気藹々でしたね。

(アルバム・GOSPEL HOURの時の写真。カメラマンは小木曽威夫さん。)


インタビュー : 木村由理江