66.ゴスペル経験者ゼロで挑んだ第一弾『GOSPEL HOUR』

――三部作の第1弾は『GOSPEL HOUR』(1992年5月21日)。“歌う”がテーマのです。

 FLYING KIDSの基本であるファンクミュージックのルーツのひとつである“ゴスペル”に焦点を当て、コーラスを多用した作品にしようと考えました。アルバム『続いてゆくのかな』にもゴスペルをモチーフにした楽曲はありましたけど、メンバーにゴスペル経験者はゼロ。それでも「どこまでできるかわからないけどとにかくやってみよう」とみんな、意気込んでました。ディレクターの田村さんの提案で「1曲につき楽器は3つまで」という縛りもありましたね。「こうしたいああしたい」という想いがありすぎてレコーディングにものすごく時間がかかっていましたから、事前にちゃんと考えをまとめてから作業に入る、というやり方を身につけさせようとしたんだと思います。最初に楽器を3つ決めたら、あとはコーラスやクラップをどう活かすかを考えることになるわけで、確かにレコーディングはスムーズで時間も随分短くなりました。

――アルバムのクレジットによると、レコーディングは91年12月から92年1月まで。1990年12月3日にツアーが終わったあと作業は始まった、と。

 年末年始に栃木の実家で『カナリヤ』と『進め!進め!進め!』と『胸のチャイム』の歌詞を書いた記憶があります。その時は、前作『青春は欲望のカタマリだ!』の制作中に感じていた“閉塞感”がまったくなかった。実家で書いたのがすごくよかったんだと思います。

――FLYING KIDSの曲作りは、この頃から変化していくわけですね。持ち寄ったモチーフや断片をもとにスタジオでセッションしながら、という曲作りはしなくなっていった、と。

 確かにそれぞれが自分で曲を仕上げてくるようにはなりました。ただコーラスを含めたアレンジは、スタジオで、みんなで考えてました。非常に立派な感じのコーラスワークになったのは、その辺のアレンジ能力の高いメンバーがいたのと、メンバーの声域が広くてばらつきがあったからでしょうね。“新しいことにチャレンジする”ということもモチベーションになってました。そこがFLYING KIDSがこのアルバムで見せたロックな態度だったと思います。

――『GOSPEL HOUR』の冒頭を飾るのは『胸のチャイム』です。

 「メロディのヒントになったのは飛行機で聴いたBGM」と丸山さんは話してましたけど、“転調しては元に戻る”を繰り返す複雑かつ特殊なコード進行で、丸山さんの曲の中でもメロディの素晴らしさは群を抜いていると思います。

 歌詞のテーマは“放課後の世界”。当時勧められて読んだ山田詠美さんの『放課後の音符(キーノート)』の影響を受けている気もします。「自分以外の物語を歌詞にしたら?」と周りに言われていた時期でもあり、物語を描くようなスタイルで書いた初めての歌詞だったはず。それまでちょっと苦々しい切り口で歌っていた青春を急に穏やかに肯定してるのは、このアルバムの特徴でしょうね。一昨年くらいかな。久々にライブでやろうと思って、歌詞を一言一言噛み締めながら書き起こした時に、「完璧だな」と思いましたね(少しはにかむ)。〔今まで知らなかった優しい言葉を投げかけ会いましょう〕っていう、小学校の標語みたいな歌詞が出てくるところに、ちょっとグッと来ちゃいました。

――アルバム冒頭から流れるコーラスのクオリティに驚いたことを思い出します。

 もしかしたらこの曲が一番『ゴスペルアワー』的かもしれないですね。「1曲につき楽器は3つまで」という縛りはあったけど、ギターとキーボードとドラムの他にベースも入れてよかったんじゃない? って今聴いて、思いました。

(書斎にあるFLYING KIDS関係のビデオテープ。レアなものが沢山あります。)


インタビュー : 木村由理江