64.『青春は欲望のカタマリだ!』は実験的で一番ヤンチャなアルバム
――アルバム『青春は欲望のカタマリだ!』を締めるのは『一日の終わり』。シンプルなメロディにのせてなんてことない家族の景色を歌う、かわいい佇まいの曲です。
自分でもすごく好きな歌詞です。書かれているのは僕の家で実際にあったことばかり。〔父がととのえた垣根 (きれいだ)〕とか〔くる日もくる日も(ねむいね)〕とか、小学生の感想文みたいでかわいいなあ(笑)。普通は歌詞にしないことを歌詞にしているのも気に入ってます。
――でも余韻は深いです。
そこが大事なところなんですよ。自分に起きたいろんな出来事をわかってほしくて誰かに話したりするけど、わかってもらえるのはほんの一部で、全部をわかってもらうのは難しい。そのうち誰にも話さなくなったりしてね。「自分に何が起きたかなんて誰も知らないし、わかってもくれないんだよな」っていまだに思います。丸山さんが書いてきた曲を聴いた時にふと、そんなことを歌おうと思ったんですね。
ゴスペルっぽいヴァージョンですが別に弾き語りのアコースティックヴァージョンもあって、それは翌92年3月20、21日の渋谷ON AIRのライブで無料配布したカセットテープに収録され、のちに発売されたシングルコレクション『FLYING KIDS NOW!~THE NEW BEST OF FLYING KIDS~』(2004年)の初回限定CDに収録されました。もしかしたら、そっちの方がいいかもしれない(笑)。
――アルバムはこの曲で普通に終わります。そこが前2作と違うところです。
もうヘトヘトで、最後にガラッと雰囲気を変えるような曲を作る余裕はまったくなかったんですね(苦笑)。
――アルバムジャケットのテイストも、前2作と比べるとずいぶんスッキリしています。
前作に引き続きアートディレクターはミック・イタヤさんで、スタイリストは馬場圭介さん。「“バカおしゃれ”路線を引き継ぎつつ、よりファッショナブルに」とお願いしました。インナースリーブに書いてある“KING ON THE ROAD”や“FLYING KIDS LOVE THE BEAUTIFUL”は、カメラマンの小暮徹さんが撮影中に口にしていた言葉。ミック・イタヤさんがそれを拾って使ってくれました。今見ると、ジャケットのみんな、かわいいですね(笑)。
――内容的には相変わらず過激なところもあるんですけどね。
アルバム『青春は欲望のカタマリだ!』ではとにかくいろんなトライをしているし、それを踏まえて次に進む、ということの連続でした。それまでサンプリングキーボードで代用していたブラスやストリングスを生音にすることで“サンプリング文化の中での生バンド”というあり方から脱却しようともしていたし。
――生のストリングスやブラスを入れてみて、どうでした?
生音にすることで自分たちが想定していたアレンジをこんなにも軽々と乗り越えていくのかと驚きました。音もいいしかっこいいし、すごいなー、嬉しいなーと。他にも、ビートルズの手法をいくつか試したりもした。ヘトヘトに疲れてはいたけどやる気だけは満々で、変化し続けていかなきゃいけない、新たな発見やトライがないとFLYING KIDSの曲として成立しないと思って、僕らは時間と労力を惜しまなかった。スタッフも「チャレンジしていこう」という気概に溢れてましたね。手法的にはこのアルバムが一番ヤンチャで、実験的だと思います。予算と時間を割いてこのアルバムを作らせてくれたビクターには、本当に感謝しています。
――愛されていたんですね。
愛されてましたね。ただ売上は厳しくて、そこから展開が大きく変わっていくことになるんですけど・・。
(アルバム「青春は欲望のカタマリだ!」がリリースされた時、関係者に配られたもの。
ブックレット、カセット、そして1sと2ndから選曲されたスペシャルCD。)
インタビュー : 木村由理江