63.『野生のエルザ』から生まれた『野生のハマザキ』
――アルバム『青春は欲望のカタマリだ!』の7曲目は『野生のハマザキ』。タイトルのインパクトは強烈でした(笑)。
加藤が作ってきたのが、レニー・クラヴィッツの影響を受けたブラックロック的なモチーフだったんですよ。FLYING KIDSがブラックロックをやることは全然アリだよなーということになり、みんなでセッションして仕上げました。
歌詞のヒントになったのは、当時なぜか思い出していた『野生のエルザ』(ジョイ・アダムソン著)。“野生のハマザキ”というタイトルで歌詞が書けそうだ、とひらめいたんですね。それならロックンロールスターのパロディを描こう、僕自身がステージでやっていることを皮肉るような、ちょっと視点をずらした歌詞にしたらおもしろいんじゃないか、と。大金を稼いで、女性にモテて、うまいメシを食ってというロックンロールドリームは結局、人間誰もが持っている欲望の反映でもあるわけで、いろんなことにがんじがらめになりながら、自分は少しも野生的じゃないと思って社会生活を送っている人たちも、身の内に“野生”を持ち合わせているんだよ、みたいなことを言いたかったんしょう。そこまで理路整然と考えて書いたわけじゃないですけどね。
途中、〔ハロー ヤセイノ ミナサン コンニチハ〕で始まるところには、別録りしたトイピアノの曲を挟んでいます。ビートルズがアルバム『アビイ・ロード』でやっていた、別の曲と組み合わせてひとつの楽曲にするというやり方を踏襲しました。ちょっとしたチャレンジでした。
――9曲目の『小さな私』はじゅんちゃんこと浜谷淳子さんソロ曲です。曲は加藤さん、歌詞はじゅんちゃん自身が書かれています。
「じゅんちゃんのソロ曲をやろう」と提案したのはディレクターの田村さんだった気がします。もっとじゅんちゃんを前面に出していこう、ということだったんでしょう。僕はレコーディングには立ち会ってましたけど、制作にはあまり関与してないんですよ。今なら歌詞を書いたりアイディアを出したり、もっとうまくじゅんちゃんをプロデュースできる自信があるけど、当時はそんな余裕がまったくなかった。そこは悔やまれますね。
(浜崎3兄弟と母。左端が貴司。)
インタビュー : 木村由理江