62.ビートルズの手法も取り入れた『お別れのあいさつ』

――アルバム『青春は欲望のカタマリだ!』の5曲目は『お別れのあいさつ』です。

 この曲を丸山さんが持ってきた時には、すでにかなり仕上がった状態でしたね。でも歌詞はなかなか書けなかった・・。丸山さんが作るのはいい曲が多いんですけど、歌詞には毎回苦労するんですよ。メロディラインが独特で独自の世界観があるから、道が細くてそこに寄り添う言葉がなかなか見つからないというのかな。思いがけず別れの歌になってしまったのも、別れの歌でしかその道が通れなかったんでしょうね、きっと。

ストリングスを入れたのは、バンドの演奏だけだと間が持たなかったから。金子飛鳥さんのストリングスアレンジは非常にドラマチックで、当時はちょっと感傷的すぎる気もしていましたけど、今、久しぶりに聴いて、情感が見事に表現されていていいなと思いましたね。

 歌詞も、当時はストレートすぎると感じてました。『明日への力』や『木馬』や『朝日を背に受けて』にも言えることですけれど、もっと深いところまで行けたらよかったな、とちょっと悔いが残っていたんです。でも今は、これはこれでアリだな、と思えます。音楽シーンが変化したことも大きいんでしょうけど。

――“ストレートすぎる歌詞”も、当時のFLYING KIDSにとっては新しいトライのひとつだったのでは?

 そういう面も確かにありましたけど、FLYING KIDSの楽曲は感情が見えない、情緒が薄いところが特徴でもあったから、感情や情緒がちょっと出すぎかなーと。それはアルバム『青春は欲望のカタマリだ!』の特徴でもありますね。

――精神的、肉体的に疲れていて感情がダダ漏れしていたということでしょうか。

 ダダ漏れ(苦笑)。だからちょっと恥ずかしいんですよ。あの頃は次から次へと楽曲を作らなくちゃいけない状況で、その度に自分の心の中にあるものをすべて吐露していた気がする。余裕のない、ぎりぎりの自分が投影されていると言っていいかもしれない。本当に、ストレートだなあ(と歌詞を見返しつつしみじみと)。

 オープニングの不穏なストリングスは、その頃読んでいた『ビートルズレコーディングセッション』にあった、ある音源を録音したテープをハサミで切ってばら撒いて、それをランダムに繋いで再生するというのをやってみたもの。アルバムが出たあとにシックのメンバーだったナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズに「CDでーた」という雑誌で対談した時に、「おお、ビートルズだね」って言われたことがありました。

――6曲目の『この世の楽しみ』は、説明に迷う曲です。作詞・作曲ともに浜崎さん。ほぼ全編ファルセットです。

 「もう1曲作らなきゃアルバムが完成しない」という状況の中で、無理矢理捻り出した曲です。リズムは90年代のグラウンド・ビートにちょっとレゲエを加えたもの。〔この世の楽しみ 見つからないけど〕と歌ってますから、楽しめてない時期だったんでしょうね(苦笑)。それで楽園感を出すためにハワイアンのモチーフを使ったり・・。まあ遊び曲というか、実験曲ですね。

 メンバーはこの曲をやることに不安もあったと思いますけど、とにかくアルバムを完成させなきゃいけないと僕は必死でしたから、理詰めでメンバーを説得した記憶があります。

――ストリングスアレンジを担当した金子飛鳥さんの反応は?

 注文に応えて淡々とやってくれてました。でもシュールな曲だと思ったでしょうね。別のスタジオで小泉今日子さんの『あなたに会えてよかった』のレコーディングをしてたベーシストの根岸孝旨さんが遊びに来て、「なんだ、この曲?」みたいな顔をしていたのを憶えてます(苦笑)。

(当時同じレーベルに所属していた深津絵里さんと。)


インタビュー : 木村由理江