61.『木馬』は僕にとってとても重要な曲
――アルバム『欲望は青春のカタマリだ!』の4曲目の『木馬(あたたかな君と僕)』はどんな経緯で生まれたのでしょう。
当時、誘われて何度か行った東京ディズニーランドで見たメリーゴーラウンド(キャッスルカルーセル)が、歌詞のモチーフになっている気がします。ポイントは〔手を伸ばすけど とどかない あたたかな君と僕〕というところ。“人と人の距離は一生埋まらない”ということを暴きつつ“でもそれは大きな問題ではない、手を伸ばそうとすることで十分なんだ”という目線が、自分でも気に入っています。できた時には「この歌詞が書けてよかった」と思ったし、作詞をする人間としての自分の力を確認でき気がします。
当時丸山さんに「(2コーラス目の冒頭の)〔黄昏の夕暮れが〕ってどっちも同じ意味じゃないの?」って指摘されて、「そうかー」と思いつつそのままにしました。他に変えようがなかったんですね(笑)。
――曲も浜崎さんです。
この曲は100%自分のオリジナルです。もちろん過去に聴いてきたいろんな音楽の影響は受けているんでしょうけど、モチーフにした楽曲があるわけではないし、ファンクというジャンルにこだわったわけでもない。「ああ、これは紛れもなく自分のものだ」と、できたときに確信したし、このメロディがのちの僕のソロにも繋がっています。半音で動いていくコード進行を多用しているあたりに“オレ節”みたいなもが感じられますね。
――それまでとは曲の作り方自体が違ったわけですね。
そうですね。音楽家としての自分の将来に対する不安が、僕にはずーっとあったと思うんですよ。多少詳しいメンバーがいるとはいえ“ド素人”がプロになって、導き手であるプロデューサーも、レコーディングや作品作りについて教えてくれる人もいないまま自己流でアルバムを作ってはきたけれど、「これでいいの?」という疑念がいつもどこかにあったというか。とくに曲作りですよね。『幸せであるように』がマービン・ゲイの『ワッツ・ゴーイング・オン』をモチーフにしているように、FLYING KIDSは既成の楽曲をいろんな形でサンプリングしてオリジナルを作るというやり方が身についていたけれど、そこからさらに一歩進んだところで曲を作るのが本当の音楽家なんじゃないか、と。アルバムを2枚作って、それまでの作り方にも一つ区切りがついたと感じていましたから、3枚目のアルバムの制作に入る頃には「自分だからこそのオリジナリティを音楽にしたい」という切実な想いが芽生えていたと思います。だからこの曲ができた時はすごく嬉しかったし、歌詞を含めて僕にとってはとても重要な作品です。FLYING KIDSにとってどれだけ重要なのかというのは、また別の話ですけどね。
(雑誌 SPAの表紙。撮影は小暮徹さん。私の乗っているお立ち台を作ったのはEd TSUWAKIさん。)
インタビュー : 木村由理江