58.『君だけに愛を』で芽生えた“フロントマン”としての自覚
――田村さんはなぜ、ザ・タイガースの『君だけに愛を』を選んだんでしょうね。
まあその、なんていうか・・、(しばし言い淀んで一気に)当時の僕はフェロモンを撒き散らしていましたからハマると思ったんじゃないですか(照笑)。“浜崎貴司を売る”という作戦に、スタッフサイドがなっていた気がします。「フロントマンとしての自覚をもっと持たなきゃいけないよ」という田村さんの提案でもあったんでしょうね。実際、自分はバンドのフロントマンとしてちょっとした“アイドル的な役割”を担うんだなという自覚が、この頃に芽生えたんじゃないかな。ジャケット写真を含め、プロモーションも僕がメインで活動する機会がどんどん増えていきましたからね。
ストレートなラブソングを歌ったのは『君だけに愛を』が初めてでしたけど、歌ってみたら意外とハマるのもわかって、「生きるとか死ぬとかばっかり歌ってたけど、ラブソングもありだよなー」と思ったりもしましたね。ちょっと味を占めたというか(笑)。レコード会社もその路線で盛り上がろうとしたんでしょう。当時ブレイクし始めていた岩井俊二さんにミニ映画的なロングヴァージョンのMVの監督をお願いして、僕が吸血鬼を演じる『どぼちょん』を作ったりしましたね。
『君だけに愛を』のカバーには賛否両論あったし、そこで離れていったファンの人もいるんですけど、こういう新しい試みの積み上げが次に繋がっていったのは確かです。「もっとわかりやすくしましょう」という空気にもなって、それは曲作りやいろんなものにどんどん影響を及ぼしていきましたね。
田村さんの提案でもうひとつ大きかったのは、「あるライブを見てファンのみなさんは“欲望の塊だ”と思ったんだけど、“欲望の塊”というテーマで曲を作りませんか」と言われたこと。レコーディングの後半でしたね。
――アルバム『青春は欲望のカタマリだ!』(91年10月21日)の冒頭を飾る『欲望のカタマリ』ですね。
“発注”を受けて楽曲を作るなんて初めてでしたけど、田村さんのことは好きだったからちょっとやってみようかな、と。自分なりにいろいろ考えた結果、自分自身のエネルギーの根源にあるのは“欲望”であり、そういう根源的な部分とFLYING KIDSが持っているファンク的な要素や解放を目指す感覚はきっと繋がると思えたし、最終的に“欲望のカタマリ=青春”ということに僕自身はたどり着きました。その時点でできあがっていた楽曲たちにも共通するテーマだと感じて、オープニングテーマになるような曲を作ることにしたんです。田村さんは「君たち、これだろ」と僕達に伝えたかったのかもしれないと、あとから思ったりもしましたね。

(左は父の弟の叔父さん夫妻。抱かれているのは従姉妹。右は母と兄と私。)
インタビュー : 木村由理江